以前のブログには事ある毎に記していたですが、昨年末あたりから俄かに和モノの芸能のあれやこれやを覗いてやろうという気分に。この半年の間には、講談、文楽、浪曲、女流義太夫、薩摩琵琶などなど硬軟取り混ぜて、機会を見つけては出かけて行ったりしておりました。
そこへいよいよもって歌舞伎の出番というわけでありますよ。予てTV放送されるときなどは積極果敢に(?)視聴してきたところながら、歌舞伎公演を生で見るというのは初めてのことになるものですから、最初から牙城たる歌舞伎座ではいささか敷居が高くも感じられて、出かけた先には半蔵門の国立劇場でありました。
折りしも「平成28年6月歌舞伎鑑賞教室」と銘打った企画公演が行われており、前座的に「歌舞伎のみかた」なんつう解説が付くとなれば、素人筋には打ってつけかと思ったようなわけでして。
1階席の大半は高校生らしき団体でしっかり埋まっているという状況とは、よそ様の校外学習に紛れ込んでしまったかの印象あるも、その分分かりやすく説明してもらえるという仕立てでありましょう。
まずもって、何のセットも置かれていない素のままも舞台の状態で幕が上がり、廻り舞台がぐるぐるするさま、大小設けられた迫(せり)の上下動が見て取れる。こういう仕掛けの部分は普段余り見られないのでしょうなあ。
そういうするうちに花道の迫(「すっぽん」というのですな)から解説役たる中村萬太郎が登場、やおら飛び交う「よろずや!!」の声というわけですね。いかにも歌舞伎らしいところです。
で、これまた初心者向けであるからなのか、公演プログラムの役者紹介の欄にはしっかりそれぞれの「屋号」が書いてある。この機会にビギナーの方もどうぞ掛け声を!てなことでしょうか。実際、歌舞伎座では臆するもここでならというくらいの遠慮がちな掛け声が時折飛び出してきたのには、苦笑を禁じえないところでもありましたですが。
と、あれこれの解説がちゃちゃっと30分ほどなされたのちに、掛けられた演目は河竹黙阿弥(素人も知ってる有名どころですな)の、「新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)」が正式名称ながら「魚屋宗五郎」として知られている芝居でありました。
たまたまにもせよ、この芝居は昨年亡くなられた十代目坂東三津五郎を偲ぶNHKのTV番組で放送されたときの出し物でしたし、先頃にも尾上菊之助を追いかけたドキュメンタリーで、父であり師匠である尾上菊五郎から教えを受けていたのが「魚屋宗五郎」。予備知識としては十分な演目であったと、こういうわけでして。
まあ、そうでなくても「世話物」とあって言葉は分かりやすいですし、ストーリーも捻ったところもなくストレートでまさに初心者向けなのでしょうなあ。見どころのひとつは何と言っても、金比羅様に誓いを立てて酒を断っている宗五郎が妹供養の憂さ晴らしにと酒に口をつけたが最後、やめられないとまらない状態に…といったところえもあろうかと。
最初は少しならと勧めもしていた周りの者たちとの酒杯の取り合いのどたばたは誰しも笑ってしまいましょうし、飲むほどに酔うほどにべらんめえになっていく様は役者の演技を見るという点でも分かりやすく、また興味深い。
ちなみに…遅ればせになりましたですが、ここで宗五郎を演じたのはほどなく八代目芝翫を襲名することになっている中村橋之助。次代の大物と目された役者たちが何の因果か、櫛の歯が欠けるように鬼籍に入ってしまった中、背負って立つところが俄然大きくなってきた役者なのではなかろうかと。
当然に宗五郎の飲みっぷりも見事なわけでして、役柄的に考えますとTVで見た三津五郎ももちろん巧いところながら、元来の端正さがいささか仇になっているやにも思われるのに対して、べらんめえの似合い具合では橋之助を買いたいところでもありますね。
ということで、TVで見ているだけで良しとしていた歌舞伎でありますが、やはりその場での雰囲気にはそれなりのものがあると改めて知ったからにはこいつぁおっつけ歌舞伎座へと繰り出していかざぁなるめえなあ(笑)。