いわゆるおとぎ話の類いを翻案して新しい物語を仕立て、映画にするてなことはよく行われておりますなあ。「スノーホワイト」の戦う白雪姫なんつうのもありましたし。

 

と、ここで見てみましたのは「ジャックと天空の巨人」という一本。元のお話は言わずと知れた「ジャックと豆の木」ですけれど、思いもよらず大冒険活劇に仕立てたところは「よくまあ…」とは思いますですよ。

 

 

ですが、天空の巨人たちがひれ伏してしまう王冠の存在や巨人達の姿かたちという造形的なあたりも「ロード・オブ・ザ・リング」を思わせるような。ま、本来的な「ジャックと豆の木」の話では短すぎるので、膨らませる手段としてエッセンス拝借といったところでしょうか。


もっともストーリーの壮大さで「指輪物語」に敵うものではありませんが。とまれ、地上と天空世界を巨大な豆の木が結びつけるのは原典どおりとして、元々の話と決定的に異なっていますのは、その豆の木を伝って天空の巨人たちが地上に大挙攻め込んでくるということでありますね。

 

最終的には何とかかんとか撃退して(といっても無敵の王冠あればこそですが)、農民のジャックはお姫様と結婚するという逆玉も実現し「めでたし、めでたし」となる。これには巨人たちとの戦闘といったアドヴェンチャーが必要な要素だったのでしょう。

 

ですが、この異様な敵が突如乱入してくるという構図は、ことヨーロッパ世界の歴史に照らして考えてみると、アジア、アフリカ、南アメリカなどにヨーロッパから乱入していった史実を想起させることはないのかなと思ったり。しかも、映画のように現地の人たちがこれを撃退して「めでたし、めでたし」という結末にはなってこなかったということも。

 

そんなふうなことを考えて「うむむ…」となっていたですが、翻って「ジャックと豆の木」というお話のそもそもに立ち返ってみますと、どうやら「大英博物館にあったアングロサクソンの民話」の再話として「イングランド民話集」(1890年)に載っているのが最も有名な例であるとWikipediaに。

 

そして、設定としては「アルフレッド大王時代のある日」ということだそうでして、その頃のことを思い浮かべてみれば、折りしも当時のイングランドはデーン人の侵攻に脅かされていたのだそうですね。

 

デーン人は(デンマークと関わりがあるように)北欧系ですから、おそらくは巨人族。それが豆の木をするすると降りてくるように、ヴァイキング船で海上をすぃ~と移動し、火のような猛攻を仕掛けてくるとはヒストリーチャンネルで放送された「VIKINGS」を見るごとし。ようするに、「ジャックと豆の木」の時代背景に思いを馳せると、こうしたことが天空の巨人たちの襲来を想起させるような気がしてきたわけです。


もっとも、「ジャックと天空の巨人」の制作がこうしたことを意識していた…とも思われませんが。本来の「ジャックと豆の木」では豆の木を登っていったジャックが巨人のところからお宝を失敬してくるお話ですけれど、あたかも他人のものを勝手に取ってきてしまうというのでは教育上好ましからずと受け止められたか、元々お宝はジャックの父親の所有物であったという筋に変えているものもあるらしい。

 

ですが、時代背景までを考えてみると、ジャックの行動はデーン人に奪われた財宝を取り返す行為とも受け取れて、いわばヴァイキングへの意趣返しを民話の形で語り継いだのかもしれんなと考えたりもしたですよとなれば、ジャックは豆の木に登ったのでなくして、海を渡った…ということになりましょうか(笑)。