東京・新宿の損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「フランスの風景 樹をめぐる物語」展を見てきたのでありますよ。
「コローからモネ、ピサロ、マティスまで」と副題には大物が並んでいますけれど、むしろ今まで知らなかったような作家たちの作品にこそ目が留まったといいますか、溜まってしまってどうしようと近頃買い控えていた図録をつい買ってしまったり。何せ「個人蔵」といった余りお目にかかれないであろう作品も多々並んでいたものですから。
と、そんな展示の中で「お!」と思った作品にいくつか触れておこうと思いますが、まずもってはバルビゾン派のテオドール・ルソー(1812-1867)「夏の風景」です。
テオドール・ルソーは森を多く描いて、うっかりするとどれもこれも同じに思えて来、ついついさらっと通り過ぎてしまうところながら、今回は2点だったこともあってか、比較的じっくり見ることに。
してみると、空が、そして雲が良いなと思ったのでありますよ。
「夏の風景」では森に投げかけられた光が織り成す陰と陽、一見したところでは暗さの勝っている森が、だんだんと目が慣れることによって見通しがきいてくるという、実際の森の中にでもいるかのような気がしたものです。
お次は、個人的にはこの展覧会で最大、最高の見ものと感じた一枚、ギュスターヴ・ドレ(1832-1883)の「嵐の後、スコットランドの急流」という作品。ドレは版画で有名ですけれど、この縦108cm×横183cmの大作風景画は大きさ的にも、また見た目的にも他を寄せ付けない存在感を放っておりましたよ(と、個人的には)。
元来、アカデミスムによって絵画主題の序列に厳しかったフランスに風景画の素晴らしさを意識させる点でイギリスの風景画家もひと役買ってますが、平坦なフランスに比べてイギリス、というよりスコットランドの山がちな風景は文字通りにピクチャレスクな風景として見えたことでありましょう。
ドレが描いたのも「スコットランドの急流」とあるように、峻険な山々が抱きかかえるような谷筋の風景。そして、岩に張り付くように経っている木々がたくさんの湿気を含んでいる様子が、「嵐の後」であるということを空気感で伝えてくるのでありますよ。
こういっては何ですが、周囲には同じように自然をきれいに描いた作品が並ぶ中、「きれいだけど…」で終わらない作品というのはドレをおいて無しの印象。「個人蔵」ということですが、ぜひどこかの美術館に寄託してほしいものです。
と、テオドール・ルソーやギュスターヴ・ドレは先に言った「今まで知らなかったような作家たち」ではないわけですが、次に触れるレオ・ゴーソン(1860-1944)は正真正銘、知らなかったなあと。新印象派、即ち点描の画家なのですなあ。
本展ではルソー、ドレと空、雲に注目してたりするところですけれど、ゴーソンの「樹木の向こうの村」に見る点描の空と雲、描くのが難しいでしょうねえ。点描は印刷物になってしまうとたちどころにそのマジックが雲散霧消することしばし、空気までも構成要素に分解して表現しようとでもあたり、実物を見てこそになりましょうね。
他にも、知らずにいたけれど気になる作品を描いた作家たちを備忘録的に。ルイ・アイニ、シャルル・フレション、ジョルジュ・タルディフ、アシール・リージェ、シャルル=アンリ・ぺルソン、そしてクリスチャン・ロールフスといった面々は今後どこの美術館でお目にかかるや知れず、その名を記憶に留めておこうと。
「樹をめぐる物語」というテーマに沿ってというよりも、ひとつひとつの絵の個性と向き合って十二分に楽しめた展覧会でありました。