京都・伏見を真ん中において右往左往しながらあちこち訪ね歩いてきたわけですが、いよいよもって伏見を離れる段になってまいりました。そこで町なか歩きの際にあれこれ見かけたものを、最後に落穂拾いとしてさらっておくといたしましょうかね。歴史ある町には決まって「おお、こんなものが?!」とか「ここでそんなことがあった?!」てな看板を見かけますものですから。
まずは、京阪中書島駅の駅前で見かけた解説板でして、「日本最初の市電・中書島駅」とありました。日本で最初の鉄道路線はいわずと知れた新橋~横浜間ですけれど、電車となると…こちらでしたか。
我が国最古の電車路線であった伏見線(塩小路高倉~中書島間)七、一kmと稲荷線(勧進橋~稲荷間)0、七kmは昭和四十五年三月三十一日をもって廃止した。伏見線の歴史は長く、最初は京都電気鉄道株式会社の手によって塩小路東洞院~油掛町間が明治二十八年二月一日に日本初の路面電車として開通し、大正三年三月三十一日と同年八月二十五日に延長部分が開通して中書島に達した。
今ではバス通りとなっている竹田街道に沿って路面電車が走っていたのですなあ。解説板の写真を見る限り、そして現在の道幅から考えても自動車との併用は難しかったのではと思いますので、専用軌道だったのかもしれませんですねえ。
ところで上の解説に油掛町という地名がでてきますけれど、黄桜の伏水蔵へと向かう途中で油懸地蔵なるものに遭遇しました。とおりすがりでしたおで、幟旗しか写しておりませんが、おそらくは町名のゆかりとなったお寺さんでしょうかね。正式名称は浄土宗油懸山西岸寺と。
天正十八年(一五九〇)雲海上人によって創建された。地蔵堂には、俗に油懸地蔵と呼ばれる石仏の地蔵尊が安置されている。寺伝によれば、昔、山崎(乙訓郡)の油商人が門前で転び、この地蔵尊にこぼした油の残りを灌いで供養し行商に出たところ、商売が大いに栄えたといわれ、以後、この地蔵尊に油をかけて祈願すれば願いがかなうとして、人々の信仰を集めている。
何とは無し、もそっとおどろおどろしい謂われを想像してしまいましたが、要するに商売繁盛祈願でしたか。ちなみに貞享二年(1685年)この寺を松尾芭蕉が訪ね、「我衣にふしみの桃のしづくせよ」と詠んだことから境内には句碑があるということで。伏見は桃が名物だったとは、「そりゃ、桃山城だったのだものね」と思ってしまうところながら、こんな経緯もあったようで(「Momoyama project 伏見桃山を桃源郷に」HP)。
江戸時代に入り伏見城が破却された後には失業武士の一族により農産物として桃が植栽されたところ、伏見~大坂までは舟で一晩で届けられるという水運の利があったこともあり、いつしか全国的に見ても有数の桃の一大生産地となりました。
なお、西岸寺門前を東西につなぐ「油掛通り」の片隅には、見落としそうになるくらいのひっそりさで「我国に於ける電気鉄道事業発祥地」碑が立っておりましたよ。
お次、今度は電車でなくしてバスですな。確か京阪・伏見桃山駅近くだったと思いますが、「京阪バス発祥之地」の碑です。
京阪バス株式会社の前身 桃山自動車株式会社は、大正11年7月20日…この地に創立され、自動車11両を以てハイヤー営業を開始した。
大正13年10月28日 社名を京阪自動車株式会社に改め、同15年1月1日から京阪電車伏見桃山駅―桃山御陵下間0.8粁の乗合バス営業を開始した。昭和2年10月30日 京阪電鉄は京阪自動車の全株式を取得、その後の京阪沿線のバス路線網拡充の基をなした。
桃山御陵(明治天皇陵)参詣の脚を提供したあたり、多摩御陵(大正天皇陵)への便となった京王電鉄御陵線のような存在だったとはいえ、一バス会社の発祥とは些かスケールが小さい話とも。ただ、京阪バスは京都に現存するバスとしては最も長い歴史を持つのでもあるとか…。
と、京阪バスの碑から東へ、御香宮に至るちょいと手前にも「おお!あの!」と思う解説板がありましたですな。♪酒はのめのめ のむならばぁ~で知られるかの「黒田節」はここで誕生したのであるということで。
もっとも福岡県の民謡と伝わるこの歌そのものが伏見でできたということでなくして、歌詞の元になった逸話の舞台が伏見だったということでなのでしょう。逸話の主人公である黒田家家臣・母里太兵衛はあっぱれな豪傑として知られるわけですけれど、これまた大河ドラマのイメージとして『軍師官兵衛』の速水もこみちが浮かんできてしまい、豪傑度合に少々水を差される気もしておりまして…。ともあれ、関ケ原前夜のいっとき、加藤清正、福島正則、黒田長政と言った武将が配下ともども集まって、石田三成への不満をぶちまける宴席でもはっていたかのでもあるか…てな想像をさせてくれる場所とも言えますかね。
てなことで、しばし滞在しうろうろして回った伏見を離れ、京街道を下って(といっても京阪電車に乗って、ですが)枚方宿へと移動することになるのでありますよ。
誠に唐突ではございますが、よんどころない事情によりまして、明日(8/3)はお休みをいたすことに。また、明後日(8/4)にお目にかかれましたら幸甚に存じます。