このたびは東京・小平市にあります「職業能力開発総合大学校」とやらへ出かけてきたのでありますよ。
いったいどんな学校?と思うところながら、「国が設置し、3つの基幹業務(1.職業訓練指導員の養成、2.テクノインストラクター(職業訓練指導員)の研修(再訓練)、3.職業能力の開発・向上に関する調査・研究)を行うことなどを目的として」いるのだそうな(同校HP)。「大学校」とは、いわゆるふつうの「大学」とは異なるのであろうと思うわけですが、修了すると学位(学士・修士)も授与されるということのようで。
ですが、個人的には(早期退職したような身ですので)今さら新たな職業能力開発に取り組むつもりもありませんですが、出向いた理由は同校図書館で開催中の企画展を見るため。先ごろの東京新聞の多摩版に紹介記事を見かけたものですのでね。
でもってその内容ですけれど、展示は「図書館資料から紐解く 我が国電気自動車開発の歴史」というシリーズ企画の第1部「1940年代 日本の電気自動車開発、それは『たま』から始まった」で、この後は年度末までの間に第2部、第3部と続くことになったおると。まあ、展示スペースに至ってみれば、図書室のほんの片隅といった具合ですので、長くひっぱろうという思惑ばかりでもなさそうで、スペースの関係もあったのですなあ…(笑)。
ところで日本の電気自動車開発が戦後まもなく始まっていた…とは、2019年秋に放送されたNHK『歴史秘話ヒストリア』で知って「ほお~」と思ったものでしたですが、開発の経緯やらある程度市場を確立していたのにうまく行かなくなっていった背景やら、そんなあたりが今回の展示で窺い知れようかとも思ったわけなのですね。
フライヤーの右下に写っているのが、件の電気自動車「たま」でして、今ならばこんな形の軽自動車が普通に走っておりましょうし、それが電気駆動となればやはり大いなる時代の先駆けでもあろうかと。「たま」というネーミングも、今でこそ「かわいい!」とされるのではないですかね。多摩地域発祥との意味合いですけれどね。
東京・立川もいわば軍都のひとつだったわけですが、そこで立川飛行機なる会社が軍用機を製作していたことから話は始まります。敗戦によって「日本で飛行機作りはまかりならん」とGHQのお達しがあり、立川飛行機の技術者たちの一部は自動車製造に向かうのですな。ただ、ここで「なぜ電気?」という点まで先の『歴史秘話ヒストリア』で扱っていたかどうか。
元より石油を求めて南方進出(侵略ですが)に向かった日本にとって、化石燃料、ガソリンなども貴重品だったわけですね。一方で、散々に都市爆撃を受けて、発電施設もそれを使う工場も無いという状況…かと思えば、水力発電施設はかなり温存されていて、(工場などがないために)使用電力は少なく、電気余りでもあったというのが背景にあるようです。
開戦当初には無敵の「零戦」を生み出したような技術力が自動車に注ぎこまれて、「たま」は相当に出来のいい車になったようですね。当然に他社も参入して、いっとき電気自動車市場は活況を呈することに。なんでも「東京、大阪、名古屋の3都市のタクシーは一時期ほとんど電気自動車」という時代があったというくらいで。
さりながら、1950年に朝鮮戦争が始まると様相が一変するのであると。それまでは戦後日本の力を削ぐことを考えていたアメリカが、一転して日本を東アジアにおける共産主義の防波堤にしようとテコ入れを始めるわけで、禁輸を解除して石油が入ってくる、ついでに言えば当たり前にガソリン車であった米国車をも売らんかなとなってくる、そんな大きな流れの中に「たま」は飲み込まれたのですな。また、朝鮮戦争の砲弾などに大量の鉛が使われたことから鉛の価格が急騰し、電気自動車の必需品であるバッテリー生産に大きな影響も出たということでありますよ。
ただ、戦後の「電気なら使える」という状況から電気自動車が「唐突に」生み出されたようにも思っていたところながら、資料を見て「ほお?」と気付かされたのは、1949年刊の『自動車技術會報』第2巻第4号にある「本邦電氣自動車の沿革」という一文なのですなあ。
日本最初の自動車、それは電氣自動車である。明治32年日本に輸入された最初の自動車は電氣自動三輪車だり、その翌年大正天皇御婚儀に米國から贈られたのも電氣小型四輪車であった。このように日本における自動車電氣自動車を以て嚆矢としている。
電気自動車といえばまさに「今」のものと思いがちながら、戦後すぐには国産電気自動車が大都市を走りまわり、またそれに遥かに先立って海外から日本に持ち込まれた最初の車も電気自動車であったとは。まあ、海外でガソリン車がメインとなったのは石油メジャーの思惑絡みでもありましょうけれど、今になって改めて電気自動車が注目されているというのは、歴史の教訓でもありましょうかね。その教訓を心に刻むべきは巨大企業だったりもするわけですが、儲けることしか考えていないのかもしれませんなあ。いやはや…。