近ごろEテレで『ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪』なる番組が放送されておりますけれど、やはり何かと舞台裏は覗いてみたくなるものでありましょうかね。

 

ただ、バックヤードと言ってなんとは無しに「舞台裏」という言葉を使ってしまっておりますが、日本語的に「舞台裏」と言う言葉には、文字通り舞台の袖、裏側という場所を指す場合と、舞台の裏側で起こるさまざまな人間関係やらなんやらの裏事情のことを意味する場合もあるような。

 

スポットライトを浴びて華々しく登場する舞台人ながら、その裏側にはたくさんの(他人に言えないような)事情を抱えており…とは、多くの映画などでも描かれたところかと。そういうところを、どうも人間は覗きたくなるものなのでありますか…。

 

ともあれ、話をすっかり演劇空間のようなところに持って行ってしまいましたが、Eテレの番組で取り上げるのは美術館とか博物館、時に動物園だったり、そっち系列のもののようでして、このほどたまたま見たドキュメンタリー映画も美術館の舞台裏に迫ったものでありましたな。『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』、ウィーンにある美術史博物館を取り上げておりましたよ。

 

ヨーロッパ三大美術館の一つとして知られ、2016年で創立125周年を迎えるウィーン美術史美術館。2012年から大規模な改装工事を敢行した美術館の改装から再オープンまでの舞台裏に密着したドキュメンタリー。

映画.comの紹介文にはこのような内容であると記されておりますけれど、美術館という施設の舞台裏以上に台所事情まで窺える点では、興味深いものでありましたよ。ウィーン美術史博物館のような(巨大な、そして伝統も格式もある)ところでもというのか、だからこそというのか…。

 

大規模な改修が行われたということは当然にして莫大な費用が掛かっているわけですね。もちろん国家的な補助もあろうとは思いますが、美術館としては入場者を増やしてコスト補填に努めなくてはならない。そこでさまざまに会議を行うわけですけれど、立場の違いというのが出てきますなあ。

 

例えばプロ野球のチームでも、選手や監督、コーチというパフォーマンスで見せる側もあれば、球団経営に携わっている側もいる。両者の思惑が必ずしも一致しないことは、これまた映画などに描かれてきたところであろうかと思うところです。こうしたことは、やはりどこの組織にもありましょうなあ。営業部門と管理部門の相克ですとなね。

 

方やパフォーマンス(美術館で言えば展示の内容や特別展の企画など)で魅せればたくさんの集客間違い無しとして、それにはこれこれの収益があろうから展示にはこれこれの費用を掛けてくれと求めることになりますな。方や経理を預かる責任者としては、収益予想の根拠が薄弱ではないかを衝いてくるわけですね。まあ、どこの組織体でもあるような姿が実はここにもあったと、今さらながらに思い至る。冷静に考えてみれば、さもありなむなのですが。

 

背景として、どうやら美術史美術館といえども国家補助はすんなり潤沢に得られるわけではないようで、改修工事終了とともに売り出す年間会員券の券面に描かれるロゴの一文字にもこだわりを見せたりする。実に細かいことをやっているわけです。

 

さらに、リニューアル時には職員一同、一丸となって顧客対応するため(これまたどこぞの社長が飛ばす檄のよう)、さまざまな職種の職員たちと懇談の機会を持って、意見を吸収しようとしたりも。ここで、お客様案内係という女性スタッフが意を決して発言するひと言を、伝統・格式の意識に溢れた幹部の側では果たして素直に受け取ることができたでしょうかね。曰く、「末端の職員ながら、他のスタッフたちと顔を合わせて紹介されたのは今回が初めて」と。

 

こんなことで全員一丸とはちゃんちゃらおかしいとは言外に。でも、このスタッフは自らの仕事に誇りをもって従事していますし、勤務先の伝統・格式をまた誇りにも思っている。こういう人たちの意見を聞くてなことは、これまた(組織が苦境に立たされていたりトップが交代したりした時に)あちこちで行われておりましょうけれど、聞く耳を持った上で肝心なのは出された意見をまともに取り合うつもりがあるかどうかですな。そのつもりがないなら、単なる儀式でしかありませんし。

 

と、かつての職業経験から思いの丈を語るほうに入り込んでしまい、映画の話、美術史美術館の話から逸れてしまいましたですが、ともられ、そんなどこの組織にもありそうな内部事情がこの美術館にもあったのだということに思い至る機会とはなったのでありました。

 

ウィーン美術史博物館にはこれまでに三度行きましたけれど、最後に出かけたのは2009年ですので、映画で取り上げられた大改装はその後のお話。さてはて、美術館の各種スタッフの叡智を結集した結果はどんな仕上がりになっているのか、それを見に行ける機会が巡ってくることがありましょうや。今はただただ先行き不透明ですが…。