先にヴィヴァルディの「四季」をいくつかの演奏で聴いた後についでだから(?)ということで、ヴィヴァルディの曲が収録されたCDをあれこれ取り出しては聴いていたのですなあ。と、そんな中の一枚にこのような2枚組がありまして、「ああ、これこれ!」と。

 

 

初出は1枚ずつであったヴィヴァルディのフルート協奏曲集とフルート・ソナタ集が再発廉価盤として組み物になったものですけれど、ここでの食いつきはフルート・ソナタの方でありますよ。『忠実な羊飼い』というタイトルのソナタ集第2番の第1曲が、かつて長らくNHK-FMで放送されていた『バロック音楽のたのしみ』のテーマ曲として使われていたのですなあ。

 

調べてみますとこの番組、1963年から1985年まで続いてその後もタイトルを変えたりしながら現在の『古楽の楽しみ』にまで続いているとか。いやあ、長寿番組ですなあ。とまれ、バロック以前の音楽を積極紹介する番組のテーマに使われていたのがバロック音楽の代表的な作曲家であるヴィヴァルディであったことは宜なるかななのですけれど、もしかしたら使われている当時から作曲者は「伝ヴィヴァルディ」とか言われていた(偽作の可能性が示唆されていた)かも。

 

結局のところ1989年になって作曲者は別人ということがはっきりしたと、このCDのライナーノーツにも記載がありまして、本当の作曲者はフランスの二コラ・シェドヴィルだということで。楽譜の出版にあたっては有名作曲家であるヴィヴァルディの作とした方が断然売れる!と考えたとか、そんなような理由であるようでありますよ。

 

完全にシェドヴィルのオリジナルなメロディーばかりではなくして、ところどころにヴィヴァルディの曲から借りたメロディーが使われていたりするあたり、確信犯ではありませんか。メロディーの借用自体、あるいはバッハもヴィヴァルディの曲を編曲したりしているように、昔は著作権がありませんからこのあたりの引用には鷹揚だったのかも。まあ、有名税のようなものもありましょうし。とはいえ、名前まで借りてしまうのはやりすぎでしょうけれど。

 

ラジオで『バロック音楽のたのしみ』を聴いているときにも、テーマとなったこの曲、いい曲だなあと当時から思っていたわけですが、作者に関してかような種明かしがされますと、そう言われてみれば…と思ったりも。バロックという以上にロココが香るといいましょうか、ギャラントな感じですものねえ。

 

ヴィヴァルディ(1678-1741)よりもシェドヴィル(1705-1782)は30年がたあとの人ということになりますけれど、のちにモーツァルト(1756-1791)の「フルートとハープのための協奏曲」あたりが「ギャラントだねえ」と思うところですけれど、華やかなりしフランス王室の宮廷が思い浮かんだりするわけでありますよ。番組のテーマ曲でも使われた音源であるジャン=ピエール・ランパルのフルートがそんなふうに思わせたりもするのかもです。

 

偽作ということが分かってしまって以来、わざわざ曰くつきの曲を録音する奏者も少ないのかCDもあまり無いようですけれど、(個人的にはかなりの思い出もまとっており)いい曲集だと思うのですよねえ。まあ、ランパル盤がひとつで満足してますですよ。