美術館を訪ねるときにはめぼしい企画展やら特別展やらがあると釣られやすいわけですが、
このほどはふいな思い付きで。何せ自由民権資料館などを訪ねて町田あたりまで出向いているのですから、
やはり町田市立国際版画美術館にも立ち寄ってしまうのでありますよ。
で、たどり着いて「どんな展覧会が開催されておるかいね?」と思えば、
それぞれ小ぶりに三つの展示が行われておりましたよ。
まずもって、公立美術館ではままあるご近所小学校の子供たちの作品展でして、
これはともするとスルーしたりもしてしまう(親御さんたちは覗きに来るわけですが…)ところながら、
順路として、この作品展のスペースを通過しないと、次の展示室にたどり着けないようでありましたよ。
(あとから気付いてみれば、別ルートもあったようす…)。
ともあれ書道作品、というより習字ですな、たくさんのユニークな?字体を眺めやったわけですが、
ただただお手本を見て書いたというに留まらない作品作りもあったりして。
これは、教師による課題の与え方の違いなのですかね…。
そんな中で、おそらくは「将来なりたい職業を書きなさい」(習字ですので、もちろん墨書で)というのが
課題と思われるコーナーでは、今どきの子供らしく?カタカナ書きの職業が多かったですなあ。
「ユーチューバー」なんつうのも複数あって(笑)。ひと頃は「なりたい職業」として「コピーライター」が
もてはやされた時代もありましたしねえ。
と、通りすがってみればある種の面白みもあった「第35回 町田市公立小中学校作品展」の展示室を抜けると、
続いては「新収蔵作品展 Present for You」というコーナーへ。
見始めて早々、江戸初期の作という「たはらかさね耕作絵巻」というのに目がとまりました。
江戸時代のお百姓さんの日常、農作業やらお祭りやらが描かれているのですけれど、解説に曰く、
「本作は、将軍や大名の子女に農業の苦難を説き民への思いやりを教える目的で制作された」のであると。
いわゆる「鑑戒画」と言われるものなのだそうです。
江戸の初期ですので、長らく農民をも巻き込んだ戦乱の時代が終わり、
武士は領主として安定的な収入確保が必要になったところで、
納税者(農民)と為政者とが持ちつ持たれつの関係にあることを教え諭したのでもありましょうかね。
いわゆる撫民につながる発想だと思いますが、だんだんと単なる上下関係としか見ないようになってしまい、
「百姓は生かさず殺さず」的になってしまうのは、むしろ天下泰平になったが故なのかも…です。
ところでこの絵巻、版画作品ではないな…と気付いてみると、周りにあるいくつかの展示もまた同様で。
これらはどうも、2019年に閉館となった町田市立博物館から移管された作品であるようです。
そのうちに一度は訪ねてみようかと考えていた施設でしたので、閉館か…と。
さりながら、国際版画美術館のある芹ケ谷公園内に新しく町田市立国際工芸美術館となって、
2024年度にオープン予定であるとか。版画美術館と併せて訪ねやすくなるので、これはこれで楽しみですな。
(それにしても、町田の施設は「国際」、「国際」と妙に大げさなネーミングがお好みのようで…)
それはともかく、版画美術館らしい新収蔵品としましては、川上澄生の作品に見られる
「文明開化期の風俗や文化を取り入れた、素朴ながら洒脱な調子」がやはり目を引くところかと。
そして、最近注目度の高まっているようすの川瀬巴水の作品も、実に情感豊かなものでありましたよ。
さて、その先にはまたミニ企画展「奈良美智と版画のなかの子どもたち」というコーナーが。
奈良作品ではお馴染みの顔つきをした少女が…と思いきや、
これって少女だけでなくして少年もいたのですな。また、どれも同じ表情とばかり思っていたものが
実はそうではないようで、ぶっきらぼうな無表情は決して画一的ではなかった…と、
これまた今さらながらに知るところなったのでありました。
ということで、ふい打ちで久しぶりに訪ねた町田市立国際版画美術館。
それはそれで意図せぬ出会いにも繋がりましたけれど、
次回展「江戸の滑稽 ―幕末風刺画と大津絵―」はこちらも面白そうな予感がいたしますなあ。
開催される頃には今少し暖かくなりましょうから、出掛けてみるとしましょうかね。