アメリカのサウスダコタ州にあるラシュモア山国立記念公園は、
ワシントン、ジェファーソン、リンカーン、セオドア・ルーズベルトという
4人の大統領の巨大な頭部が岩峰に彫られていることで知られておりますけれど、
ヒッチコックの映画「北北西に進路をとれ」のロケ地としても夙に有名な場所でありますね。
たまたまディスカバリーチャンネルの「大解剖!世界歴史建築ミステリー」なる番組で
ラシュモア山が取り上げられ、数々の謎に迫るところを見たのでありますよ。
しかしまあ、サウスダコタとはずいぶんと地味(失礼!)なところにあるわけですが、
巨大彫刻を造りだすのに都合のいい花崗岩の岩峰がここにあったからということだそうで。
造り方としてはハッパ(ダイナマイト)をかけて粗削りしたところを均していくという、
そうしたプロセスのようですけれど、アメリカのハッパ師はなかなか見事な技を持ってますなあ。
巨大なビルを一瞬にして沈み込むように崩壊させる。
海外からの映像などでもよく見かけるシーンですが、
どこにどのくらいのダイナマイトを仕掛ければ、爆裂するのでなく下の落とせるか、
熟練のといいますか、考え抜かれた技がそこには培われているのでしょうね。
ヨーロッパ同様に石造り建物や早くから鉄骨、鉄筋コンクリート造りの堅牢な建物が
アメリカにはたくさん造られているものの、ヨーロッパほどには歴史ある建物でもないことから、
スクラップ・ビルドはまま行われてきたことでありましょう。
そこでの出番がダイナマイト。アメリカならでは技であるかもしれません。
ただ仕上げは、それこそ(アメリカ人なら誰でも知っている)大統領だと
分かる表情を作り出すわけで、繊細さも必要ですな。
その段階では、平櫛田中美術館で解説を見た「星取法」と同様の手法であったと。
小さい縮尺で作った模型のあちこちに点(星)を打ち、
3D的に点と点の間の距離を縮尺分だけ逆に拡大して、大きな像を造り上げていくのですな。
とまあ、そのあたりのことも「ふむふむ」ではあったのですけれど、
実はこの巨大記念碑は未完に終わってしまったまま…ということの方が
興味深かったといえましょうか。
当初はワシントンの左隣にジェファーソンの顔が来る予定で考えられていたのが、
地層が適当でなかったため、造り掛けて放棄し、反対となりに造り直したそうな。
そして、リンカーンの左側には通路があってその奥に、
ふいに岩盤に穿たれた建物の入り口のようなものがあるのだそうですね。
そこには独立宣言やら合衆国憲法やら重要書類が保管・展示される想定であったとか。
ワシントンの国立公文書館・展示スペースにあるような書類が収められ、
いわばあまり歴史のないアメリカにあって、建国以来の重要書類を飾ることで
アメリカたるアイデンティティーを示そうとしたてな計画だったようなのでありますよ。
そうしたものまでがあってこそ、
例えばエジプトにピラミッドがあるような歴史に擬するアメリカを称揚できる、
そんなふうに考えられていたということで。
しかしながら、ラシュモア山に籠められた思いというのは、
いわばかつての西部劇のような白人開拓者側の視点でもって造られているような。
だからこそかもしれませんが、ラシュモア山のあるサウスダコタに現在進行形で
アメリカ先住民・スー族のクレージー・ホースの巨大記念碑が建造中であるというのですね。
これには驚きました。何しろラシュモア山の記念碑を上回る巨大さのようで。
といって未だ完成しておらず、一説には完成までさらに50年以上も彫り続けなければならないとか。
もはやサグラダ・ファミリアの完成が見えてきた中では、本当に完成する日が来るのか?とは
こちらのクレージーホース記念碑でもありましょうか。
ところで、先にラシュモア山の記念碑が開拓者目線であるとして、
これと対比してクレージーホース記念碑に触れましたけれど、
Wikipediaによりますれば「スー族の伝統派のほとんどは、この事業に反対している」のだとか。
どうも開拓者側の記念碑があるならば先住民にまつわる記念碑もあればよい…という単純な話ではないようで、
確かに先住民にまつわるものではあっても、その図像はやはり白人側からのステレオタイプな造形であると、
そういうことであれば、むしろ造られない方がいいと考えるのもむべなるかな。
できてしまえば長く長く残るであろうものだけに、難しい問題をはらんでいるのですなあ。
一方、ラシュモア山の記念碑は相当な補修が必要な状況にもなっているとか。
自然の岩盤も永遠ではないことにも思い至ったものなのでありました。