電話やインターネットは便利に使えるものですけれど、その便利さは両刃であって、

世の中の役に立つ使い方をする人もあれば、他人を陥れる使い方をする人もいる。

どちらにとっても便利な代物とは、要は人の側の使い方の問題であるにせよ、困ったものでありますね。

 

他人を陥れる使い方の典型的な例が詐欺での使用ということになりましょうけれど、

電話を通じた振り込め詐欺やネットを通じたフィッシング詐欺などなどは金銭をだまし取られてしまうわけで、

もちろんこれはこれで明日の暮らしをもどうしたらいいか…ということになったりしますので、

決して軽々しく考えるところではないわけです。が、騙された結果として、自らが殺人犯で逮捕されるとは、

詐欺というにはあまりにあまり…と考えてしまいますなあ。

ドキュメンタリー映画「わたしは金正男を殺してない」を見て、そんなふうに思いましたですよ。

 

 

映画は2017年2月にマレーシアのクアラルンプール空港で実際に起こった殺人事件で、

犯人として逮捕された二人の女性を巡るものなのですけれど、

ひとりはインドネシア人、もうひとりはベトナム人で二人に面識は全くないながら、

いずれもインターネットにUPするイタズラ動画の撮影への協力をアルバイトとして引き受けていた、

そういう認識しか全く無かったということなのですよね。

 

事前に何件かをお試しで行き交う誰かしらの顔に、ふいに何かを塗り付けて驚かすということを

練習(訓練?)させられた上で臨んだクアラルンプール空港、ターゲットとなる男性を示されて

二人はそれぞれにその男の顔に何かの液体を塗り付けることに成功するのですな。

これが本番と使われたその液体が猛毒のVXであるということを知ることもなく…。

 

空港の監視カメラ映像などから、この二人が逮捕され、裁判に掛けられるのですが、

警察の取り調べ、そして裁判そのものも当初は国際関係への忖度(!)から

二人を犯人に間違いないものと扱っているのですよね。酷い詐欺もあったものです。

 

ジャーナリストらや二人の弁護士の調査によれば、二人は騙されて実行犯に仕立てられ、

その背後の組織的犯行をこそ暴くべきと考えますが、紆余曲折を経て、

インドネシア人女性はインドネシア政府の働きかけの結果、釈放され、

一方、ベトナム人女性の方は(ベトナム政府にもまた忖度があり)無罪放免ではないものの

なんとか帰国を果たす。本当はそこで終わりでは犯罪捜査としては何も片付いていないのですけれど。

 

ところで、考えれば考えるほど、この二人が実行犯に仕立て上げられたのはたまたまであって、

イタズラ動画の撮影に協力して多額の報酬が得られるという話にひょいと乗ってしまうならば

誰であっても構わなかったのですよね、この事件は。

 

どうやらイタズラ動画撮影の元締めらは日本人であるかのように見せていたようですが、

そうであるならば、もしかすると彼女たちの境遇にさらされたのは日本人女性になっていたかもしれません。

こういっては何ですが、舞台はクアラルンプール空港、日本人の国際性の無さがこのような危うさを回避させた、

そんな気もしてくるわけで、怪我の功名とは的外れな言いようかもしれないながら、

そんなふうにも思ったところです。

 

マレーシアの裁判官曰く、二人はそれぞれにイタズラ動画に協力しただけと言うが、

該当の動画はちっとも面白いものとはいえず、従って二人の証言は虚偽であるしていましたけれど、

「ちっとも面白くない」とはTV番組だったら「個人の見解です」といったテロップが流れそうな発言で、

これまた酷い裁判だとは思うところながら、確かにイタズラ動画が面白いとは思えない(個人の意見です)。

 

かような動画を面白がって、しかもそれで報酬のやりとりが生じているとすれば、

(詐欺に使われるのですから、現実にもこうしたアルバイト?があるのでしょう)

何ともはや、昔の言い方をすれば「世も末だあね…」と言いたくなるところです。

 

ま、この映画本来の伝えたいところはそういうことはないのですけれど、

本来的な含みはあちこちで語られているでしょうから、ちと逸れてはいるかもしれませんが、

違った点から思いを巡らせてみたような次第。それでも考えどころのある映画でありましたですよ。