たまたま興味に適っているのか、TV「題名のない音楽会」を見ていて、

それまでタイトルを気に掛けず知らないままでいたメロディーが「こういう題名だったのか」と知る、

このところそんな機会にもなっているのですよね。

 

唱歌「美しき天然」しかり、スタンダード・ナンバーらしい「Somebody Stole My Gal」しかり。

「題名のない音楽会」で「題名」を知る、妙なものです(笑)。

 

でもってこの度は「ドアの向こうの音楽会 ~夏~」という、

さまざまな分野のミュージシャンがこの曲はこういう場所で演奏したいという願望を

デジタル壁紙みたいなふうなものでもって叶えてやろうとまあ、そんな企画ものですけれど、

ここでクロマティック・ハーモニカとアコーディオンのデュオで演奏された曲に「おお!」と思ったわけでして。

 

背景として映し出されたのはエッフェル塔を望むセーヌ川の岸辺、パリですな。

ストリート・オルガンの音色が馴染むパリの町だけに、同じように風(息)でもって音を生じさせる

ハーモニカとアコーディオンのデュオはなんともそれらしい。

 

もっとも、アンニュイな調子ではなくして、きびきびとスタイリッシュなメロディーが流れてきたのですが、

この車のCMで聞き覚えある曲が「キャラバンの到着」というタイトルであったと

ようやくにして知ることになったのでありましたよ。

 

しかし、フランスのミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」に使われた曲であるということで、

「キャラバンの到着」というタイトルの謎?を解くには、映画を見てみるしかないのですなあ。

1967年公開で、この頃の有名作はずいぶんと追っかけ鑑賞してきたつもりながら、

未見であったものですから、これを機会とAmazon Primeで。

 

 

大西洋に面した海岸線からシャラント川を少々遡った河川港の町ロシュフォール。

町で催されるフェスタのためにシャラント川に架かる運搬橋を越えて、

古風な言い方をすれば、旅芸人の一座がやってくるのですなあ。

 

運搬橋といえばスペインのビスカヤ橋が有名ですけれど、

どうやらここのロシュフォール運搬橋も1900年の完成以来、現在でも現役であるようす。

う~ん、行って渡ってみたいものですなあ…とそれはともかく、

先の曲のタイトルにある「キャラバンの到着」とは、いわゆる旅芸人の一座の到着でしたか。

 

ですから、橋を渡って町にたどりついて早々にこの曲は大々的に流されるわけですが、

単に「キャラバンの到着」という場面の音楽に留まらず、全編で形を変えつつ流れる、

いわばテーマ曲のような位置づけでもあろうかと思ったものでありますよ。

 

ロシュフォールの町はかつてフランス防衛の拠点であって、今は軍事施設は移転したとはいうものの、

そういう町だからこそ、町中を水平が闊歩し、マドロスさんは港々に女あり…ではありませんが、

束の間の恋を求めていると、そんな土地柄だからこそ、この映画の舞台なのかもです。

 

映画の中では、あちらでもこちらでも恋のすれ違いが演じられて、

その時々で高ぶった気持ちの表れとして歌や踊りが紛れ込むミュージカルとなっているわけでして、

映画であるからにはこれはジャック・ドゥミの監督作品でと言われもしようところながら、

むしろ音楽を担当したミシェル・ルグランの作品と言った方が馴染むような気がしたのですな。

 

例えばオペラにしても舞台のミュージカルにしても、前者は特に作曲家の作品として知られることになりますし、

後者では(ストーリーも作ってはいるにせよ、音楽を書いている)アンドルー・ロイド・ウェバーの作品などと

認知されるところでありますから、この映画をミシェル・ルグランのと言って、あながち的外れではないような。

 

もちろん、プロダクションとして、カトリーヌ・ドヌーヴやジョージ・チャキリス、ジーン・ケリーまで動員している

この映画ならではのところはあるにしても、です。ですから、もしも有名どころのキャスティングに頼らない形で、

ルグランが作った音楽とそれに乗った踊りなどをこそ見せ所、聴き所としては上演したならば、

もそっと生き長らえるところはあるのかもしれんなあと思ったり。

 

もっともそうなるとロシュフォール運搬橋の出番がなくなりはしますけれど、

映画としてはいささか埋もれがちになっているも、ルグランの音楽の生き残る術は

そのあたりにあるのではと考えてしまったものでありますよ。