予て「がんばれ!個人商店」的な言葉を発している者(実践はさほどには伴っておりませんが)としては、

かかる書名を見かけますと、やっぱり手にとってしまいますなあ。曰く『絶滅危惧個人商店』と。

都内各所にぽつんと、ときにひっそりと佇む個人商店を訪ねたルポということになりましょうか。

 

 

ただ、ルポであったというのは読み始めて分かったことでして、

全くの勘違いながら、存続危うい「個人商店」なるものの分析というか、

何かしらの提言であるとか、そうした内容なのかなあと思っていたもので。

 

まあ、個性豊かな(だからこそ危ういながらも存続しているわけでもあり)店を

営む人々の個性もまたさまざまであって、これはこれで面白く読んだものではありました…ですが。

 

個性豊かは努力の賜物だったり、店主のお人柄だったりするとはいえ、

存続している、場合によっては繁盛しているようにお店が紹介されつつ

「絶滅危惧個人商店」との看板はどうも少々違和感を抱いたりも。

 

考えてみれば、個人商店の凋落は昨今始まった話ではないわけでして、

地方都市ばかりでなく、東京の外れの方でもにシャッター商店街が見られるようになってから

すでに久しいだけに。ですから、すでに閉店を余儀なくされた個人商店はたくさんあって、

むしろ今でも続いている商店はの多くは危機を何とか乗り越えてきている事例なのではなかろうかと。

 

もちろん本書に紹介される中にも、今現在は続いているものの、

確実に?後継者がいないという店もありますので、一概には言えないのですけれど。

 

されど、成功事例とまで言っていいかは別として、危機を乗り越えてきている、

そしてこれからも頑張っていけるのではないかと、そんなふうなお店を見るにつけ、

他店にも取り入れられる要素があるのではと思ってしまい、

だからこそ絶滅危惧回避のヒントが示唆されているのかとも思ったわけです。

 

が、考えてみますと、個人商店というのは思い切り個性の固まりであって、

その人たちが、その場所でやっていることにそれぞれ意味があり、そこから存続策も出てくるのですよね。

ですから、他の真似が必ずしもうまくいくというものでもない。

 

つまりは(良くも悪くも)個性を活かした形であってこその個人商店なのでもありましょう。

そこに普遍的な経営上の鉄則みたいなものをいくら持ち込んでも、

個人商店のチェーン店化につながるだけかもしれませんし。

 

と、唐突ながら以前、とある牧師さんの講演で紹介されたお話を。

魚屋を営む方から「うちの店を息子が継ぎたくないというのですよね…」とこぼされたこの牧師さん、

「ご主人はどんなふうに毎日商売をしていますか」と尋ね返してみたそうな。

「もしかすると、儲かんねえなあ、やめちゃおうかなあ」、そんな愚痴をお子さんに聞かれてはいませんかと。

 

でもって、魚屋の商売が楽しくってやりがいがあってという気持ちで毎日を過ごしてみたらどうですかと、

アドバイスするわけでして、その後しばらくしてやってきた魚屋さん、「息子が継ぐそうです!」と報告に及ぶ。

 

いささか出来過ぎた話ではありますけれど、個人商店の継承にはとても肝心な点かもしれませんですね。

例えば、店主が生き生きと仕事をしているところには、一族郎党の中からでなくとも、

場合によってはそれまで客の側だった人の中からも、後継者志願が現れたりすることもあるわけで。

 

まあ、個人商店の直面する現実は、そんな生き生きとか元気にとか言っている場合ではないかもですが、

それでもやはりこの点には続いていくためのヒントがあるようにも思ったりしたものでありますよ。