町のHPに曰く、「明治以降は、多くの文人・墨客が静養や執筆に訪れ」たという湯河原。
作家の名前を拾い上げてみますと、国木田独歩、夏目漱石、芥川龍之介、与謝野晶子、谷崎潤一郎…と、
出てくる、出てくる。そして、ミステリー作家・西村京太郎もまたその中にひとりということになりましょうかね。
さほど作品を読んだことがあるわけでもありませんが、どれどれと覗きに寄った西村京太郎記念館でありました。
見た目は大きく見えますが、さほどでもありません。
というか、病気療養でやってきた湯河原が気に入ったのか、ここに住まうことにしてしまい、
ついでに記念館も開館ということですから、もしかして住まい兼記念館なのかもですなあ。
とまれ、館内に足を踏み入れたとたん、待ち受けているのはクライムシーン?
なかなかなツカみを演出しておりますな(笑)。
展示室は2階部分でして、階段を上がっていくときにも血痕が点々と…。
実は2階で刺され、なんとか階下に移動するもそこでこと切れたとか、
そんなを想像しつつ展示室へと向かいますと、開けた空間に壁面には著作がずらりと並んでおりました。
そして、フロアの真ん中にはでんと鉄道模型のジオラマが置かれている。
さすがに鉄道ミステリーで知られるだけに、鉄道模型の趣味もあるてなことですかね。
ボタンを押すと、500系のぞみや「ななつ星」、「四季島」となかなかにこだわりある車両が走り出す。
こういう場面ではたいてい子どもたちが取り巻いてじいっと見ているものですけれど、
さすがにここには一人もおらず、おかげで鉄道模型独り占め状態でしたですよ(笑)。
そんなわけでジオラマに眺めいっておりますと、「おや、パトカーが停まっている…」と。
でもって、よおく見てみればあちらこちらで事件が起こっておるようす。十津川警部大忙し!
てな具合に事件がたくさんなのは、ジオラマを囲む壁面にずらり並んだ作品との連想が働くところでして、
すでに600冊を超えているということで。おそらく全作読破といったことを試みる向きもあるかもしれませんですね。
この量産体制を支えているのは作者の精力的な仕事ぶりでありましょうか。
ビデオコーナーに映し出されたインタビューでは、机に向かって仕事をして、布団に横になっても書き続け、
ともするとそのまま夜を徹して書いていることもあるというのですから。
また年はじめには出版各社の編集者も集まって、その年の執筆計画を検討するのだそうですが、
連載11本を抱えるという年もあったりするとは、これはこれで「よく書けるなあ」とも。
ただ、ひとつひとつの作品に対するこだわりはいささか薄くならざるを得ないような。
その点を中味が薄いとまでは言いませんけれど、説明しやすい人物造形でもってあまり深く掘り下げることには
あえて紙面を費やさないように(意図的に)やっているのかもしれません。
なにしろ、新幹線で東京・大阪間の移動、つまりは3時間ほどで一冊読み終えられるとも言われる作品群、
そのことを作者自身、全く否定的には見ておりませんし。
こと(ミステリーとはいえ)文学作品てなところで考えますと、
そうしたあり方ってどうなのかいね…と思ったりもしてしまうわけですが、
むしろ原作として細かく設定していないことがTVドラマ化にあたっては自由度が増すものとして作りやすく、
2時間ドラマにあまた取り上げられることになったりするのかもしれませんですね。
十津川警部もいろんな俳優がそれぞれに演じやすいのかもです。
とまあ、そんな西村京太郎作品の一冊を今回は旅の友として携えて行きまして、
しっかり読み終えて帰ってきましたので、それに絡むお話はまた別に。