映画の話が長くなっておりますけれど、ここまでのところで日本映画がひとつも出て来ておりませなんだ。
だからというわけではありませんが、取り敢えずは2017年制作の日本映画『関ケ原』から参りましょうか。
関ケ原の戦いの勝者は徳川側であって、
その後の歴史は徳川にとって都合のいい形で語り継がれることになるものの、
果たしてそういう受け止め方で良いのかどうか。
幕末維新での会津藩の語られようと、もしかすると本作の主人公・石田三成は同じような疑問をもって
臨むことが必要なのかもしれませんですね。もっとも司馬(遼太郎)史観というのも「どうよ…」では…と、
とかく歴史に批判的な見方を欠くべからざることを思うのでありました。
ついでに時代劇をもうひとつ。2014年に公開された映画版『猫侍』でして、
その前年からTVドラマとして放送されていたようですなあ。まったくドラマは知りませんでしたが。
ともあれ、眉間にくっきり二本の縦皺、強面そのままの剣豪は北村一輝のためにある役どころとも。
設定としても剣術の腕は免許皆伝、浪々の身ながら用心棒などの口に事欠くことはないでしょうなあ。
されどこの人、(フライヤーに「人は斬れども猫は斬れず」とあるも)どうやら命あるものを斬ることができないようす。
もちろん、生きている人間を斬ることもできないようでありますが、この時代、剣客として生きていくのに
それで済むはずもないのですよね。それだけに「人を斬れない侍って?」と、その存在意義などを
つらつら考えてしまいましたですよ。斬らずに済む方法があるのならば、その方がいいとは現代の考え方で、
それを侍が考える時代ではなかったでしょうしねえ…。
日本ではまだまだ武士の時代であった幕末、アメリカでもまだまだ、いわば西部劇の世界であったわけですね。
1849年には北米大陸を東から西への大移動に人を駆り立てたゴールドラッシュがありましたけれど、
2018年制作の映画『ゴールデン・リバー』はそうした時代背景の中で描かれたお話です。
ここに出てくるような、化学的な液体を川に流し込んで容易に金を発見する方法が
本当にあったのかどうかは分かりませんですが、この映画で考えを巡らしたのは、
兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)演じる兄弟の関係でしょうか。
兄弟(姉妹も?)というのは仲良しであってもライバルのようなところがありましょうなあ、きっと。
ここでは才気ある(一方で破滅型の)弟が主導権を握って、兄は一歩引いた感じであって、
その弟のやることなすことを時に冷ややかに、時に温かく見守っているのが兄なのですね。
たぶん、母親(最後になって登場しますが)からイーライは
「おにいちゃんなんだから、弟の面倒をみなくては」てなことを言われながら育ったのでもありましょう。
これが弟には「兄貴は愚鈍なだけ」というふうにしか見えていないのですなあ。
長い時を一緒に過ごす家族の中の葛藤は、実に実に難しいものであると改めて思ったりしたのでありますよ。
まあ、関係が難しいのは家族の間ばかりではありませんですね。
社会人になると家の外での活動、行動が多くなるので、例えば上司と部下との関係も
結構な長い付き合いになったりするかもしれませんが、その相性にはいろいろあって…。
2019年制作のアメリカ映画『レイトナイト 私の素敵なボス』も、なかなかにやっかいな関係であろうかと。
ただ、邦題にある「私の素敵なボス」という言葉とフライヤーの写真からは想像しにくいところながら、
実際に思い出す類似作は『プラダを着た悪魔』であろうかと思いますので、推して知るべしかと。
『プラダ~』のメリル・ストリープに比べれば、本作のエマ・トンプソンの方がまだましかなと思いますが、
『プラダ~』から十数年経って、相手役にインド系を配したこと(このこと自体、時代性でしょうか)で
あまりに厳しいつっこみようをしにくいところがあったのかもと邪推してしまったりもするところです。
一方こちらは、二人の関係という点で「できすぎ」なお話。もちろん、そのできすぎ感がコメディーではありましょう。
2019年制作のアメリカ映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』でありますよ。
言ってみれば、シンデレラ・ストーリーの逆バージョンのような設定でして、これもまたご時勢かなと。
ただ、毎度のことながら、アメリカン・ジョーク(?)にはどうも肌に合わないところがありはするものの、
シャーリーズ・セロンのゴージャスに見えるところとそうでないところとの落差は、
コメディーとして楽しめるところではなかろうかと思ったものでありました。
と、あれこれの映画を続けて二人の人間関係のような括りで見てきてしまったおりますが、
最後に取り上げますのは2017年のアメリカ映画(ながら舞台は英国ロンドン)『ファントム・スレッド』で。
オートクチュールのドレスメイカーであるレイノルズ(ダニエル・デイ・ルイス)は
たまたま入った食堂のウエイトレスであったアルマの体形に最高のドレスを作るひと型を見出して
雇い入れるのですけれど、本来、支配・被支配の関係にあったレイノルズとアルマの間には
やがてこの関係が逆転したかのような状況になってくるという。
レイノルズの姿には、自ら造った彫像のガラテアに翻弄されるピグマリオンを見たりもするのでありますよ。
…てなことで、3回にわたって長らく映画の話になってしまいましたので、
2021年の映画落穂拾いはこのへんで。また、来年もたくさんの映画に接することでありましょう。