先に引き合いに出した「広重・英泉の木曽街道六拾九次旅景色 」は実に興味深い内容でして、
木曽街道シリーズ全71点の錦絵に描写されたあたりを一点ずつ見ていくと同時に、
実際の宿場町の観光案内的なことも添えられているという。
こうなりますと、全ての宿場町を踏破してやろうかいねといった野望をつい抱いてしまいますが、
宿場によっては「~のほかは、宿場の面影を見出すのは難しい」という記述があって、
いたずらに旅ごころを煽るばかりになってはいませんので、それではかいつまんでと思い直す。
こたびも塩尻宿を後に洗馬(せば)宿、本山宿、贄川宿と続くあたりをすっとばし、
(もっとも贄川宿手前の「是より南 木曽路」碑は気になってはいましたけれど)
その次に出てくる奈良井宿を目指したのでありました。
中山道でも木曽路とされる部分には11の宿場があって「木曽十一宿」と言われたそうですが、
その中でももっとも殷賑を極めたのが奈良井宿であったとか。
「奈良井千軒」とも呼ばれる長い長い軒のつながりは約1kmに及び、
日本一長い宿場町であったそうな。
1968年に街並みの保存運動が始まり、
1978年には国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されたということですが、
少々その街並みのようすをご覧願うことに(なかなかの風情をお伝えできるかどうか…)。
真ん中の「あぶらや」の建物が分かりやすいと思いますけれど、
2階部分が1階よりもせり出しておりますね。
その出っ張った2階を支えているのを出梁(だしばり)と言って、
これが特徴的な様式であることから「出梁造り」と呼ばれるだそうでありますよ。
ところで、奈良井宿のすごいところは街並みを保存しつつも活用しているという点でしょうか。
店構えは江戸期の風情そのままでありながら、現役で営まれているお店が無数にあるわけで。
名産品である木曽漆器を扱うお店なんかがわりと目についたような気がしますですね。
とまれ、そんなふうに歴史を歴史として見せるだけではないのが奈良井宿であるだけに、
商売も忘れてはいないとなると、観光客へのもてなし精神の発露でもありましょうか、
一軒一軒それぞれ門口になされている飾り付けが実にいいではありませんか。
この日は(木曽節の文句に反して)暑い暑い日だったのですけれど、
こうした軒先のゆらゆらがあちらこちらで見られると「ほっとひと息」てな気分に。
観光地としても名だたる場所だけのことはある…という気がしたものでありますよ。


