よく知らずに見てみたら「コッホ先生と僕らの革命」
という映画はサッカーの話だったわけですが、
このサッカーはイングランドから持ち込まれたものながら、イングランドでは
およそサッカーとは言わずフットボールというような。
ドイツ語でもフットボール的な「Fußball」(フスバル)と呼ばれるのは、
持ち込まれた経緯の関係でありましょうかね。
とまれ、このフットボールなのか、サッカーなのかといった辺り、
予て謎とは思いながらも、さほどサッカーに入れ込んでいるわけでもない者としては
ついついそのままにしてしまっていましたけれど、これを機会にちと探究を。
ちくま新書の一冊「フットボールの文化史」を読んでみたのでありました。
そもイングランドにおいて、
「フットボールと思われる遊技」に関する記述が12世紀頃に見られるとありまして、
また、1314年には最古の記録と思しき「フットボール禁止令」が出されたとのこと。
まあ、古くからフットボールはあったということになりましょうけれど、
この頃のフットボールとは統一的に決まったルールなどは無くって、
「ボールを足で蹴ることもある」行事くらいの意味合いではなかったかと。
イングランド各地の民俗行事的にそれぞれの取りきめで行われていたわけですが、
日本の祭りにも古来伝わるものには乱暴な(今から思えば)というようなのもあり、
当時イングランド各地で祭りとして行われたフットボールは相当に過激なもので、けが人続出。
だからこそ「禁止令」が出されたりしたわけですね。
こういうのっていうのは「やっちゃ、ダメ」と言われて、
「はい、そうですか」とはならないことは容易に想像できるのでして、
とにかく「ボールを蹴る」たぐいの競技はイングランドのそこここで長く続けられていたと。
それが大きく様変わりするのは19世紀になって、
パブリックスクールに体育的要素として取り入れられるようになったこと。
ここでは、当時のパブリックスクールが今想像するようなエリートのためのものでなかったとだけ、
触れておきたいと思いますが、ともかく学校でやるのだから一定のルールが必要ですし、
やがては対抗戦といった発想が出てくれば、ルールもまた統一的であるべきとなってきますね。
このパブリックスクールにおける競技としての発展過程で見逃せないのが、
「フットボールとは突き詰めて言えば、足でやるもので手は使ってはいけんのだ」という一派と
「各地で独自なフットボールの伝統を鑑みれば、ボールを抱えて走ることだってあり」と考える
一派もあり、てなことであろうかと。
当然に同じフットボールの伝統から発して、
前者がサッカーと言われ、後者がラグビーと言われるのは日本(その他の国にもあり)のお話。
されど、イングランドにとってはどっちもが「フットボール」であって、
我らの競技こそが「フットボール」であるてなせめぎ合いにもなったりしたところかと。
一日の長ありは先に団体を作ったサッカー側でありましょうか。
1863年に結成された「FA(Football Association)」がルール作りをするのですね。
そこで、FAが取り組むサッカー型のフットボールのことを
「アソシエーション・フットボール」と呼ぶことがあったらしいですが、
これが長くて言いにくいことから「Association」の「soc」の部分を使った略称「soccer」が誕生。
ですが、自分たちの競技こそフットボールと思ってる人たちですから、
他の国ほどに「サッカー」の通用度は今に至るも低いままてなことのようです。
ちなみにラグビー型の方もラグビー・フットボールと言って引き下がらない(?)。
そもそもの伝統的フットボールで使われてきたボールを見てごらんない、
まん丸じゃあないでしょ!というかもですねえ。
実際、豚や牛の膀胱を膨らませて革張りし、ボールを作っていたそうですが、
これらの膀胱の形状からすると、丸に近い楕円であったそうな。
ラグビー側からすれば「ほおら、本家筋でしょう」となるやもながら、
サッカーはより足で蹴りやすくまん丸に、ラグビーはより持ち運びやすく尖った楕円に
それぞれ進化したのでしょうから、お互い様ではありましょうけれど。
あ、そうそう「サッカー」の語源には触れましたですが、
ラグビーの方は…こりゃあ、有名ですね。
パブリックスクールのひとつ、ラグビー校でフットボールの試合中、
やおらボールを抱えて走り出してしまった生徒がいた。
この目からうろこのボール扱いを受け入れる形でラグビー型フットボールは進んでいったと。
ラグビー校を訪ねると、抱えて走った生徒の名前の刻まれたプレートがあったりするようですが、
どうもこの発端の伝承は眉唾ものらしい…。
団体立ち上げでもサッカー型に遅れをとったラグビー・フットボールの側には
何かこうした目立つ事柄が必要だったのかもしれません。
ということで、イングランドではサッカーと言わず、フットボール。
同じ英語圏のアメリカではサッカーという言葉が一般的なようですけれど、
これはアメリカでフットボールと言うと「アメリカン・フットボール」のことを指すから。
こう言われれば、なるほどですね。
もっとも、アメリカでこのことは余りに自明なために「アメリカン・フットボール」とは言わずに
単に「フットボール」と、当然に言うのでありましょう。