「ブルワース」というアメリカ映画を見たのですね。
ジャンル分けからすると、コメディーということになるようで、
確かにその側面は否めないものの、「笑ってもおれんぞ」的ところも濃厚かと。
上院議員のジェイ・ブルワース(ウォーレン・ベイティ)は選挙を間近に控え、
参謀たちが遊説の準備等々にあわただしく駆けずり回っている。
ところが、どうやら当のご本人はすっかり選挙に嫌気がさしている…というか、
何日も食事をとることもなく、何日もまともに寝ていないとなれば、
こりゃあもうノイローゼの域ということになりましょうか。
その挙句には密かに殺し屋を雇い、自分の殺害を依頼するのですね。
先だっては保険業界のロビイスト(?)に業界への便宜を図るからと多額の生命保険を
掛けさせているわけですから、残された家族への配慮は冷静といえましょうか。
(もっとも、奥さんの浮気はとうに知れたことで、人前でだけは仲良し夫婦ふうなんですが)
こうした状況の下、スケジュールに乗って遊説に出掛けるわけですが、
どうせ自分は殺されることになっているのだからという開き直りからでしょうか、
支援者、これは業界・団体に利する方向で動く見返りに金銭的に多額の支援をしてくれる
人たちのことでありますが、その人たちを歓ばせるような内容で容易された遊説原稿をほかし、
思いのまま、思いつくままに話を始めてしまうのですね。
政治家なんて、民主党も共和党もみんな同じ。
へいこらしてれば金をどんどん出してくれる業界・団体の顔色ばかりを伺っている。
こうしたことを、まさにその業界・団体の人がいるような席でぶちまけ始めるという。
この辺りの「あちゃ~」感は正しくコメディーとも言えましょうけれど、
二重の意味で痛い、痛い。
ぼろぼろになってるジェイの姿がどうにも「痛い」ということもありますが、
やり玉に挙げられた業界・団体の人々が反感を募らせる反面、
いわゆる一般大衆は大喝采を送り、俄かに大統領候補か?!との呼び声まで。
いかに政治家が本音を語らないか(今さらでもありますが)を考えれば、
これもまた「痛い」点ではなかろうかと。
おそらくは本音ばかりでは世の中なんともならないものではありましょう。
政治家のみならず、一般人であっても心の中に浮かんだことをそのとおりに言葉として
外に発していた日には、世の中は「バベルの塔」状態になりましょうから。
ですが、あまりに一般の人々の思いと乖離したことが
「政治」の名のもとに罷り通っていくことを目の当たりにすれば、
「なんだかなぁ」の思いはひとしおかと。
そこへ「政治家なんてのはみんなどっかから金をもらってんだ」的なことを、
一般人でもそうなんだろうなあと想像はしていることを、
当の政治家が(といっても映画ですが)はっきりと言ってしまう。
何だかしれんが「こいつは本当のことを言う。こいつは信じられる」みたいに思うのでしょう。
好きなようにぶちまけたジェイとしては、ノイローゼもどこへやら、
生きていく気が俄かに戻って、殺し屋への依頼を取り下げようと大騒ぎ。
反面、業を煮やした業界の人が、今度は暗殺の目論見を講じて…。
と、やっぱりコメディーですかね。
ただ、やっぱり「笑ってはおれんぞ」というところを当然に
製作・脚本・監督も兼ねたウォーレン・ベイティも持っておりましょうね。
ま、見れば一目瞭然でしょうし。
世の中には確かに「知らない方が幸せ」みたいなことがあるにしても、
全く気付いていないことと、薄々「もしかして…」と思っているようなことには
対応を変える必要がありますよね。
それを何もかも言えないことにしてしまうと、不信は募るばかりでありましょうから、
黙す必要もあるだろう反面、語るべきは語る必要もあるという、
そこらへんの機微を弁えてこそ、政治家の器なんではないですかね…。