ドイツ語で「Humburger」は「ハンブルクの」という形容詞的な使い方(「ハンバーガー」でない)で、
「Kunst」は芸術、「Halle」はホール、つまりはハンブルク美術館なわけですが、
この建物の感じからすると、美術作品を一堂に集めて展示してみせるホールてなふうにも
思えてくるところではないかと。
ですが、写真でもご覧いただけますように建物ドームに鉢巻き?がしてあって、
「WEITER OFFEN <<<」と表示されています。
ハンブルクで一番のお目当てであるのに、つまりは改装中でもありましょうか。
何とも詰めの甘さが露見した感ありで、本来の歴史ある建物には入り込むこともできずじまい。
ですが、「Weiter offen(向こうでやっているよ)」となれば、「<<<」に導かれるまま
隣接する新館(?)にたどりついたわけでありました。
歴史的建造物とは打って変わってモダンな様子は
このエントランス・ホールからもご想像いただけるのではないでしょうか。
と、外回りや建物のことはともかくとして、早速にコレクションを見て行くわけですが、
ここの所蔵品は予想を上回る見応えでありましたですよ。
ヨーロッパの大きな美術館ならではの太っ腹さで、ここでも写真はOK。
例によって鮮明ではありませんけれど、ざあっと振り返っておこうかと思います。
まずは古いところからですけれど、
16世紀前半の南ドイツ派による「聖カタリナの神秘の結婚」、
幼子イエスから婚約の指輪を渡される場面でしょうか。
名も伝えられぬ画工の作ながら、非常に精巧細密である点に目を瞠るところでありました。
お次は(いきなり年代が飛びますが)、フラゴナール、1764年頃の作とされる「哲学者」。
(聖ヒエロニムスと見る向きのあるようです)
フラゴナールと言うとどうしても「ぶらんこ」のような濃厚なロココ色が浮かびますけれど、
あちらこちらで作品を見て、実は芸が広いと承知したわけでありますが、
結構ドラクロワのような劇的な捉え方もするのですよね。
こちらはゴヤの「ドン・トマス・ペレス・エスターラの肖像」(1795年頃)。
宮廷画家であったからには当然にたくさんの肖像画をものであろうものの、
肖像画家としては余りピンと来てなかったのが、こうして思いのたけ写実的に描くと
実は巧い(失礼!)のだなと改めて。
と、さらさらと見て行って、早速にメイン・イベントでありまして、ハンブルクに来たらこれ!
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの作品でありますよ。
生まれ故郷であるフォアポンメルンのグライフスヴァルトの草原を描いもので、
なんつうことのない風景とも言えるのですが、
それでも寂寥感の漂うのがフリードリヒ流でしょうか。
そして、極めつけの一枚はこちら。
先の草原を描いて1~2年後(1823~24年頃)ですけれど、いきなりの真打ち登場です。
ドイツ語でそのまま「Eismeer」(「氷の海」の意)と言うのが実にぴたりとくる気がします。
映画「スーパーマン」の惑星クリプトンを思い出させたりしますが、
そうした映像で作り上げたものを上回るSF的世界を感じるところではないかと。
想像としては、きっちりかっちり描かれているものと思っていたですが、
実はそうでもなくってですね、意外にぼやぁっと淡いふうでもあり、
ある程度の距離を持って眺めると像を結ぶというか、そんな印象なのですね。
奇しくも前に置かれたベンチに腰掛けると塩梅いいような。
これはちゃんと狙った上での配置だったんですかねえ。
「氷海」一枚だけでも興味は尽きないところながら、フリードリヒの別作品も。
何点か展示されていたんですが、も一つピックアップするなら、やはりこれでしょう。
見覚えのある方がたっくさんおいでのことと思われる「雲海の上の旅人」(1818年頃)。
ザクセン地方とチェコの国境にあるエルベ砂岩山地の取材に基づく景色とのことなんですが、
左手奥は富士山
、その右手ちょっと手前はモニュメントバレー、
そして中景は中国山水画の世界と、どこかにあるようで、どこにもない世界に
アレンジしているのではないですかね。
山頂に立って背を向ける人物の姿からは、
どうしても哲学的な思念を抱くものと受け止めてしまいますが、
そうしたことと相まって、場所の特定はむしろ望むところではなかったのかもしれません。
また「雲海」(Nebelmeer)は文字通りに「海」のイメージを反映しているように思えなくもない。
エルベ砂岩山地もかつては海の底であった場所らしいですから。
と、フリードリヒ以外にも目を向けねばですが、幻想的なつながりで言えば
ベックリンの「聖なる森」(1886年)あたりでしょうか。
こうした幻想性に対しては敵対勢力になるかもですが、
アカデミスムこてこてのジェロームの絵も、今や対立構造の分け隔てなく見てみれば、
やはり魅力的ですね。
「アレオパゴス会議でのフリュネ」を題材にした神話画(1861年の作)という体ではありますが、
やっぱり女性の優美な裸身を描きたかったのではないかなぁとは思ってしまったりしますですね。
むしろ神話画的な風情を醸すのはアルマ・タデマがブドウ収穫祭を描いたものの方かも。
これも細部にわたって静物画のような精細描写がすごいんですが、
全体的にも物語性が伝わってくる気がしましたですよ。
…と他にもまだまだ近現代ものや彫刻・造形作品などあれこれ振り返っておきたいところながら、
これ以上は「ハンブルクで是非見てね」となりましょうか。
最後に一枚だけ、ご当地ものを。
ヴュイヤールが描いたハンブルク、内アルスター湖岸の景観であります。
描かれた頃からはともすると100年近くも経っているやに思いますが、
今でもこんな雰囲気のあるハンブルクの町。
そこにあってクンストハレは絵を見る楽しみに溢れた場所でありましたですよ。