クラシック音楽をたくさん聴き出すきっかけが吹奏楽にあったせいか、
声楽系の音楽を聴くようになったのはずいぶんと後回しだったのでして、
合唱付きのオーケストラ作品などを入口に、オペラを聴くようにもなってきている今日この頃ですが、
声楽のソロ・リサイタルのような類いにはとんと出かけたことがない。
まして外国から招聘された、チケットの値の張る声楽家となっては尚の事…でしたんですが、
ふいとフライヤーに接して「こいつは、行かねば!」と思った演奏会に出かけてきたのでありました。
イタリアのソプラノ歌手エヴァ・メイのリサイタルであります。
2011年の3月(大震災の数日前)に読響の演奏会に迎えられ、
オペラのアリアをたぁんと歌ってくれたエヴァ・メイの歌声は、
先にも申しましたように普段あんまり声楽に触れることのない者にとっても
「こりゃあ、すんごい!」と思わせてくれるものだったのですね。
それがずいぶんと印象に残っていたものですから、
今回のリサイタルにも飛びついたというわけでなのでありますよ。
ともすると、記憶は美化されることがありますから、
チケットを手にしていっときは盛り上がったものの、
少しは冷静に構えた方がいいかもと思いつつ歌い出しに注目したですが、
「美化もへったくれも、ああた、もう!」
実に実に素晴らしいではありませんか。
まずもって感じたのは、歌声に湿度感があることでしょうかね。
じめじめとしたものではないことはもちろんですが、
当然に人の吐息に含まれる、からからではないひと肌の湿度といいますか。
ソプラノの歌声はともすると、金属音のようであったり、
機械的な印象を受けたりすることがありますけれど、
そうした冷たさではないものと言ったらいいですかね。
また、ソプラノの超絶技巧的な楽曲を並べたCDなんかでは
聴いていて、「うう、耳につらい…」ということもありますけれど、
発声に無理が無いと思われるだけに、大きな音、高い音であっても
耳への届き方はほどほどに曲そのものとして入ってくる感じがします。
このあたり、あかたもゲルギエフの振るマリインスキー歌劇場管弦楽団を聴くときの、
パワフルなところでも決して力みがないあたりに通ずるかなとも。
ありていに言って、歌っている曲は(時折知ってるメロディーもあるものの)ほとんど知らず、
ということはどういう内容を歌っているんだかもさっぱり?だったりするところながら、
「んなこたぁ、二の次」と割り切ってもおつりがくる気がしたものでありますよ。
声という楽器、それを操ってエヴァ・メイが出す音色のつややかさ、あでやかさ、
時に明るく、時に翳りを帯びて、そりゃあもう相当に個人的ツボにはまったとしか言いようもない。
あえて個人的と言いましたのは、
そもそもエヴァ・メイという歌い手が今の声楽界で一般にどんな評価がされているのか、
(CDの数では必ずしも判断できませんけれど、少ない方ですよね)
そのあたりが分からないからなんですが、この際世間はともかくも…とすることに。
何しろ笑顔を絶やさないステージ上の立ち居振る舞いも好感が持てますし、
袖へ引っ込んだ後になるとたちどころに遠慮気味になる日本人らしい拍手にも応えて
(この辺り、北ドイツで聴いた演奏会のことを後から書いていきますが、彼我には違いが…)
4度もアンコールしてくれましたし。
来年3月にはまた読響との共演でモーツァルト のアリア集が予定されてますので、
いやが上にも待ち遠しく思うところであります。
と、ひとしきり個人的盛り上がりだけをお伝えしとりますが、
みなさんも「芸術の秋」に心動かされるものとの出会いがありますよう
願っておりますですよ。