ちょっと前の新聞記事に、こんな見出しがありましたですね。

85歳ストーカー逮捕 80歳女性宅に押しかける

理由としては「交際を迫るため」とのことだったようですけれど、
どうしても「そんなお爺さんがそんなお婆さんに…?!」と思ってしまうところ。


だいたいからして「85歳」「80歳」と年齢を強調するかのような見出しが
「いい歳して…」というニュアンスが濃厚でもあったように思われます。


まあ、ここまでの高齢ではなくとも、「いい歳して…」と思われるような同様の事件は
目を留めてなかっただけで数多あるのかもしれませんですが、
ひとつ言えることは、「高齢」だとか「爺さん婆さん」だとかということが
傍目であって、当事者には関係ないレッテルなのだろうということでありますね。


人間いくつになっても、コントロールしようのないさががつきまとう。
そりゃ年齢を重ねることで、一般的にはそうした本性というか、本能というか、
生々しいあたりは理性なりなんなりで抑え込むことがあったとしても、
実は根っこのところに本能的なものは隠れていこそせよ、あるにはある。


そうした部分の表面化がどれほどあることなのかは想像したこともありませんけれど、
それが事件化しないところまで含めれば、卑近な言葉でいうところの
「痴情のもつれ」みたいなことは山のようにあったりするのかも。


昨年10月に亡くなられた作家・連城三紀彦さんの没後に出版された最新短編集、
「小さな異邦人」を読んでいて、そんなことを思ったりしたですよ。


小さな異邦人/連城三紀彦 文藝春秋


作中からキーワード的に拾ってみると「別れた妻に似た女」、「田舎の温泉町で
待てども来ぬらしい男を待つ女」、「不倫旅行に行った後に必ずその行き先の切
符を買いに来る知らない女」、「母の浮気を疑う父親が起こした無理心中」…。


一編一編それぞれはあえかな情感を醸しているだけに、
ついついその世界に釣り込まれそうになってしまうところはあります。


ですが、よおく考えてみると「すごく特異な設定なのではないの、これ」とも思ったものの、
改めて冒頭のように考えてきますと、ケースごとに異なる点があるのはもちろんながら、
それも大同小異であって、「実はよくあることなのか、こういったことは…」とも。


先に人はとかくエモーショナルで… てなことを書きましたけれど、
さらに加えて人は何ともインスティンクティブなものでもあるわけですねえ。


…と、気付いてみれば作品のことにちいとも触れておりませんが、
そも普通なことであるのかないのかみたいな違和感があって
浸りきることができずじまいなれば、致し方なしというべきでしょうか。


ただ、そこらへんを(難しいながらも)すっぱり割り切ったとして、
ミステリーとしての側面だけを考えてみると、

それはそれで大したものだなと思いますですね。
「そうきたかぁ…」の連続ではありましたし。


表題作の「小さな異邦人」は、読み終わってからタイトルを深読みすれば
ネタばれ含みでないの?とも思うところですけれど、
子供を誘拐したという脅迫電話が架かってくるものの、家の中にはみんないる…
という奇抜な状況には、輪をかけて「そうきたか」と思いましたから、
余計なことをとやかく言わずに読めば、本書を手に取るきっかけの新聞書評にあった
「まさに珠玉と呼ぶにふさわしい短編集」という言葉どおりとなるかもしれませんです。