このところ「おバカ映画」に近寄っていなかったこともあり、
たまにはいいかと見に行った「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」。
まあ、新聞評だったかで、単なるおバカ映画ではなさそうと
予想させるところがあったからなのですけれど。
青春時代にやり残したこと、途中まででそのままにしてしまったこと、
顧みれば誰にもそのようなことのひとつやふたつはあるかもしれません。
それを思うとき、ついつい世界が薄くセピア色がかって見えてきたりして…。
高校の同級生であった主人公5人組が卒業式を迎えて、
てんでばらばらの人生を歩み出す前にやろうとして成し遂げられなかったこと、
それは生まれ育った小さな町の中にあるパブ12軒を一晩で飲み歩き、
制覇するということでありました。
町のパブガイドを手に、12軒を巡るルートを「ゴールデン・マイル」と呼び、
これに挑む自分たちを「三銃士」に擬えて「五銃士」と称する。
いずれも、高校生はいずこも同じと思わせるエピソードではなかろうかと。
自分の中学・高校時代にも似たような(と飲み屋のはしごではありませんが)
何かしらの命名をして得意になっていたようなことがあったやに思われ、
面映ゆくもなる瞬間でありますね。
実のところ、五銃士の健闘もむなしく最後までたどり着けずに
酔っぱらって脱落者が続出、偉業達成?は敢え無く潰えてしまったわけですが、
12軒のうちの最終目的地たるパブが「The World's End」という名前。
文字どおり、地の果ては遠かったということになりましょうか。
ところが、すっかりおっさんになった五人組がこれに再挑戦することになり、
故郷の町で待ち合わせ、かつてよりも場数を踏んで酒にも強くなったのか、
快調な滑り出しで、ゴールデン・マイルに挑み始めます。
かつて高校時代には、何にもない田舎町と思っていた故郷も
改めて見れば懐かしいものでしょうけれど、
そんな変わらぬ懐かしさをパブの店内に見出そうとすると、
どうやらあちらのパブ、こちらのパブ、同一資本の系列化に置かれたのか、
内装からメニューまで全く同じ状況に「スタバか?!」と嘆く五銃士でありました。
が、どうもスタバ化しているのはパブばかりでなく、
町の人たちにあまり表情がなく、あたかも人間が「スタバ化」しているかのよう。
これは(スターバックスばかりをやり玉に挙げるわけではありませんけれど)
大袈裟に言えば、現代社会への風刺以外のなにものでもないわけで。
(ここから先はネタばれめくことをご容赦いただいて)
その背後には当然に侵略者(まあ宇宙からの、でしょうね)がいるんですが、
侵略者のターゲットになるのは大抵、大都市と決まっていますが、
それが何の変哲もない田舎町に一大拠点を置いている…とは、
これまた侵略もの映画のパロディーでもありましょうか。
駅前で見かけ、現代美術の作品かと思われた彫像が後に五銃士に襲いかかってきますけれど、
これなども映画「宇宙戦争」でのトライポッドを思わせますし。
とまあ、そうしたことに気付いてしまった五銃士の面々は
侵略者にロボット化されてしまった町の人々と戦う羽目に陥り、
最後にはパプ「The World's End」でもって侵略者の親玉との決戦に臨むことになるのですね。
が、こうした場面、危うい目にも遭いつつ、主人公たちは結果的に戦いを制して敵を撃退…
となるのがありふれた流れであろうと思いますが、ここで展開されるのは
侵略者の親玉との直談判といったてい。
ある意味、穏やかな侵略者なのか、
「我々のやっていることは君たちのためにもなることなんだ」と説得に掛かるも、
これに対して、すでにしたたか飲んでいるつわもの五銃士がきっぱりと主張するのは
「愚行権」なのですよ。
愚かなことだと分かっていても、人さまに(さほどの?)迷惑を掛けない範囲で
自分の責任においてバカなことをやる権利、これを行使できるのが人間で、
そうではなくなった町の連中はみなロボットだぁ!と。
ちと書きすぎた嫌いがありますので最後は踏みとどまってぼかしますが、
結果として侵略者は(呆れ果てて)去り、
それまでに侵略者側が人知れず人間世界に根付かせていたものも回収していってしまいます。
気付いてみれば「もしかしたら、本当にどこからかの侵略者がもたらしたものかもしれんな」と
思えるほどに今の人間を縛っているものが取り払われて、見た目には荒廃した世界が残る。
でも、一から出直しできっと人間は逞しくやっていくのだろうな…と。
むしろ明るい展望を想像してしまうのも、
ロボット化していない人間だからこそなのかもしれませんですね。
こうした面にだけ触れると、まるっきりSF映画のように思えるかもですが、
掛けあい漫才にも似たセリフのやりとりには捨てがたい妙味があって、
やはりコメディーであることには間違いない。
ですが、うっかり見落とすことがないほどにきっぱりとした風刺が込められていることも
間違いないところでして、そんな映画だとは思いも寄らず…でしたが、堪能いたしましたですよ。