ふと気付くと最近刊行された本を読んでないな…ということがままありまして、
思いついた時には何かしら読んでみようかと思うわけですね。


ですが、新刊にあまり執着がないものですから買うことまではしないで、
図書館で借りようとするとこれが順番待ちになったりしてしまうわけです。


で、そんな順番待ちを経てようやっと手元にやってきた一冊、
芦辺拓さんの「奇譚を売る店」というもの。


芦辺作品は以前「裁判員法廷」というのを読んだですが、少しも記憶にない。
その程度だったのか、単に記憶の衰えかはともかくも
何かの書評で見る限りでは面白そうかもと思った本書の方は果たして…。


奇譚を売る店/芦辺 拓


簡単に言うと面白かったと言ってもいいかなと。
連作短編の体裁で尻あがりに興味が増していったようなところがありますけれど、
考えるに世代的に近い(たぶん!)と思われる作者と共通のバックグラウンドがあるからかも。


「また買ってしまった…」という呟きから各編(最後だけちょと違う)は始まりますが、
これは例えば星新一さんの各編が「ノックの音がした」で始まる「ノックの音が」と同じように、
「え?何、なに?」と聴き耳を立ててしまうふうな、ツカミの効果がありますですね。
「ノックの音がした」って、誰が来たのさ?「また買ってしまった」って、何をさ?と。


で、各編ともに古本屋で何かしら買ってしまってため息をついてしまいながらも、
古書店に漂う臭い(独特の、ありますね)をして「書香」と言ってしまうような古書好きな「私」が
毎度毎度みょうちきりんな品を買って帰るともれなくついてくる奇妙な出来事。


古い病院の事業案内であったり、撮られずじまいに終わった映画の企画書だったり、
はたまた昔あった少年向け月刊誌(付録が満載されてた、あの類いです)だったりするんですが、
ひとつひとつの品に絡んだ話を作り出す点では、なかなか妙手だなと思われます。


ところで、個人的に作者と共通のバックグラウンドと言いましたのは、
映画が娯楽の王様だったことの最後の残り香を吸ってたくらいの年代からすると、
企画倒れ映画の企画書に盛り込まれた人名等がおよそパロディで成り立っていることに

にやりとしますし、少年向け月刊誌には触れられたというだけで、

「少年画報」、「冒険王」(「少年」あたりはも少し前世代か)の付録が欲しかったけれど、

なかなか買ってもらえなかったんだよなぁというような記憶を呼び覚ますことになったり。


そうそう、縁日の露店ではこまいブリキのおもちゃやなんかと一緒に、
古い号の付録だけが売られていたなんつうこともありましたですねえ、とやおら鮮明な記憶が。


と、それはともかく最終編だけが導入部の文句もちと違うように
この最後のところでで、それ以前の奇妙な出来事それぞれに対する謎解きが始まるのですね。


そも「奇譚を売る店」ですので、
一編ごとの奇妙な話がそのまま終わっても「ま、それもありか」と言えないことはない。
ですが、それでは捻りが足りないとばかりの最終章となるわけです。


そこで一応の解決と言いますか、読者側の得心と言いますかが確保されて
要は全てが不可思議な現象というものではなかったんだねと思い掛けたところで、
さらに最後の最後にはロジカルな奇妙さ(変な言い回しですが)に再び落し込まれる。


このように書くと、実は大がかりな本格ものなの?とも思われてしまうかもですが、
そこはそれ、肩の凝らない読み物ということで。


ちょっと前までは、こうした読み物に対して
「果たして小説と言えるのか」みたいな噛みつき方をしてましたけれど、
要するに小説とは別物と(個人的な思いとして)決めてかかることで

少々あくが抜けてきた今日この頃でありますよ。