しばらく映画館では所謂ハリウッドものを見てないなと思っておったところですが、
「今頃、こんな映画、作られたんだぁ」と興味本位に見に行った「ローン・レンジャー」でありました。
かつて日本でも放映されていたアメリカのTVドラマ「ローン・レンジャー」。
ご記憶の方はもはや結構な年齢になっておりましょうなぁ。
個人的には、何といっても「ハイヨー、シルバー」の掛け声と
ロッシーニ作曲「ウィリアム・テル」序曲の行進曲(部分)に乗って突撃するあたりを
おぼろげに覚えている程度ですが、「ウィリアム・テル」を聴いて湧き起るワクワク感というのは、
どう考えても「ローン・レンジャー」の影響無しとは言えないのだろうと思うところです。
…というところで、映画「ローン・レンジャー」のお話でありますけれど、
ネタばれ抜きにストーリーを語るのは難しいですので、この際触れずにとおり過ぎるとします。
(ミステリではありませんが、知ってしまうとやはり興ざめでありましょう)
ですので、まどろっこしくも周辺部分にだけ迫ることとして、
まず何よりもこの映画が「西部劇」だということには触れておかねばですね。
アメリカで山のように作られた時代のあった西部劇。
必ずといっていいほど「インディアン」を悪者にすることで戦闘シーンが作られ、
それをやっつける白人がヒーローという構図でありました。
ですが、ネイティブ・アメリカンの人たちを「インディアン」と呼ぶことも含め、
白人側に偏った表現ってどうよ?というふうな認識が共通化していくにつれ、
西部劇は活力を失われ、活劇調はなりを潜めて
作られても社会派西部劇と言われるものになっていきました。
ですが、この「ローン・レンジャー」は活劇も活劇、大活劇でありますね。
ではすっかり復古調なのかと言いますと、
「インディアン」の描き方が違和感なくいっている点でむしろ気付かず過ぎてしまうかもですが、
しっかり工夫しておるなぁと。
つまり、騎兵隊とコマンチ族の戦闘がお膳立てされるんですが、
白人側からすれば「川を越えないとの約束を守らず、川を越えて襲撃してきた」となる一方、
コマンチの側には「身に覚えはないが、売られた喧嘩は買わねばならぬ」となる。
では、本当のところは?
察しのよろしい方はすでに想像がつこうかと思いますが、
はっきり言ってしまうとネタばれ的なものになってしまいますので、このくらいに。
ただ、よおく考えてみると、そもそもの「ローン・レンジャー」からして
相棒となるトントがネイティブ・アメリカンであって、
レンジャーの活躍には常に従っている点はその後の流れを先取りするものでもあろうかと。
しかしまあ、このトント役をジョニー・デップがやるわけですが、
本当は頭脳明晰?なのを「能ある鷹は爪を隠す」であるかのように
いささかねじの緩んだふうに見えるところを演じさせると敵うもの無しではありますまいか。
ご本人もこういうのを演じるのが好きなんだろうなあと思いますですね。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」の制作チームが作ったことでもご想像いただけましょうし、
またディズニー映画であることを考えれば、「この展開はまるでカートゥーンだね」というシーンがしばし。
最後の方でぶっつぶれた楽器を軍楽隊が吹き鳴らすあたり、
あたかも「ミッキーのオーケストラ」のようではありませんか。
そうそう、ちなみにですが、軍楽隊の演奏する曲の中に
ジョン・フィリップ・スーザが作曲した「星条旗よ永遠なれ」があって、「おや?」と。
後から調べてみると「やっぱりね」だったのですが、
演奏される場面はアメリカの大陸横断鉄道の完成(ほぼ完成?)の祝賀でありまして、
史実としては1869年のこと。
一方で、スーザが「星条旗よ永遠なれ」を作曲したのは(Wikiによれば)1896年とされています。
つまり、大陸横断鉄道の完成祝賀にあたって演奏できるはずのない曲であったということなんですねえ。
まあ、細かいことはともかくとして、この酷暑の夏にいくらかでもスカッとしたいとなれば、
冷房の効いた映画館というだけでも魅力的ですが、「ローン・レンジャー」というヒーローの誕生秘話、
これでもってスカッとするという手もありますですよ。