ロンドンからローマへ 向かう飛行機はBA(英国航空)だったような。
これがフランス上空を斜めに横切って飛ぶわけですね。


2月だけあって地上はどんよりとした曇り空なのでしょう、
上空から見れば一面の雲のじゅうたんということになります。


で、その敷き詰められたじゅうたんの端の方に山の頂が顔を出しておりまして、
「おお、あれがアルプスくわぁ!?」と、初めてだものですから何事につけ反応は大袈裟です。


とまれ、空路で移動してしまえば大したことのない時間でローマのフィウミチーノ空港に到着。
飛行機の中は英語とイタリア語でしたけれど、

降りたってやおら土砂降りのイタリア語にさらされるわけですね。


たぶん空港から市内へはバスで移動したものと思いますが、
このバスの到着地というのがテルミニ駅でありました。
(そもそも「テルミニ」に駅という意味がありましょうけれど、とりあえず)


ロンドンでもヴィクトリア・ステーションに行って「お!」と思いましたけれど、
ここはそんなもんじゃあない。かまぼこ型のアーチ天上を持つどでかい建物なわけです。

すげえなぁ…と思いつつも、いちばんの心配は当夜の宿。


ロンドンでの2泊は予め手配されていたわけですが、
ここから先は帰る前の晩一泊のパリのホテルまで全く予約はなし。
その分、きままに動けるとはいうものの、

宿の確保は一日の中でも重要なポイントであるわけです。


そして、このローマで初めて自ら宿を見つけ出すということになったわけですが、
先程も言いましたように周囲はどっぷりイタリア語でもあり、
テルミニ駅頭に佇みつつ「どうしたものか」と思っていると、

やおら雨が降りだしたりするのですね。
心細さは募る一方でありましたよ。


されど、ただ佇んでばかりいるわけにもいかず、

友人に荷物番を頼んでテルミニ駅の周囲を探してみることにしたところ、

日本語交じりで声を掛けてくるおっさんが一人。
「ホテルを探しているのか?」と。


いやあ、実にピンポイントで攻め込んでくるではありませんか。
でも、こちらとしては頭のてっぺんに妖怪アンテナがびん!と立ちそうなくらいの警戒心でもって、
これを聴こえないふりしてやりすごし、広い駅の周りをひと回り。


たぶんいくつもホテルはあったのでしょうけれど、

立派なのは安心だけれどさぞ高かろうなどと思いつつ、
ひと回りを終えると先程のおっさんは何と荷物番の友人に攻め込んでいるではありませんか。
敵もさるものでありますねえ。


ですが、あたりをひと回りしたところで全く土地勘も無く決めあぐねていただけに、
よく見れば人のよさそうなおっさんだし、いざとなれば二人がかりで…てなことを

目と目で示し合わせ、「こっちだ!」というおっさんに付いて、

どんなホテルだか見てやろうと思ったのですよ。


ですが、連れていかれた先にあったのは一台の乗用車。これに乗れ!と。
いやあ、展開的にはありがたくないことに輪を掛けて、

その車というのがとんでもなくポンコツでして、
ボンネットをひもで縛ってあったりするのです。


胡散臭さは何倍にも増したのですが、
ここまでくれば「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の思い(引用が適切でないですが)、
乗り込んでいざ敵地へ!であります。


が、これが肩透かしのように近い。何で車なのという距離。
ただ、さきほどひと回りした駅を取り囲む道沿いから少し外れると
安宿はたくさんあったのだなとようやく気付いたのですね。

おっさんが導いたのはそんな安宿のひとつだったわけです。


後から考えるとこのときのおっさんは

映画「男はつらいよ」に出てきたマイコさんみたいな人で、
ちと警戒しすぎだったかと(もっとも結果オーライですが)。


こうしてそもそも「この宿には名前があるのか」というような

貸し部屋めいたところにたどりついたわけですが、
この後の顛末は次回にということで…。(つづく)