夫は最初から余命わずかと宣告され

西洋医学では不治の状態だった

 

それでも、最初の頃は

それなら西洋医学以外で治してみせる!

なんて(今思えば)カラ元気を出して

できるだけのことを試した

 

その一つが

人参ジュースを飲むこと

それも大量に!

 

栄養が破壊されないという

低速のジューサーを買って

(高かった!)

 

無農薬のニンジンとりんごを

取り寄せて……

 

冷蔵庫がニンジンだらけになって

 

でも、夫はそのジュースを

一口飲むのがやっとだった

 

苦しかったんだと思う

何も喉を通らない状態だったんだと思う

 

でも、その時の私は

これが命を救えるかもしれないのに

どうして飲めないの?

 

と悲しくて

言葉には出さなかったけれど

態度は夫を責めるようだったに

違いないと思う

 

この他にもほんとにいろいろやった

わずか2か月くらいの間に

よくあれだけのことをやったとさえ思える

 

 

 

でも、

すべてが何ひとつ効果を示すことなく

あっというまに夫はこの世界から消えた

 

そして私は

まるで仇のように

いろいろな道具や本を捨てた

 

低速ジューサーは

さすがに捨てられなくて(高かったし)

戸棚の奥にしまい込まれたまま

四年以上がたった

 

そのジューサーをこのあいだふと

もう一度使ってみようかと思った

 

再び無農薬ニンジンを買い込み

今や毎日、息子と私が飲んでいる

 

息子は以前は野菜ジュースなど

見向きもしないタイプだったが

最近は健康に気をつけているらしい

 

まるで、父親が果たせなかったことを

引き継ごうとしているかのように見える

 

もちろん息子はそんな事は思っていないだろうけれど