「ねがはくは花の下にて春死なむ
  そのきさらぎの望月のころ」

 

昔から西行のこの歌が好きだった

 

日本人のDNAをもつ人ならみんな、

魂の奥底にこの歌に共感するものを

持っているように思う

 

近所に見事な桜の枝があり

そこは家から駅までの夫の通勤路だった

 

よく、犬の散歩がてら

駅まで夫を迎えに行き、

暮れなずむ空に広がる桜を見あげては

西行の詠んだ歌を思った

 

夫はどんな気持ちで死んでいったのだろう

最後まで弱音は言わなかったけれど

 

あまりに突然の余命宣告だったから

思うところはたくさんあったはず

 

けれど、それを考えはじめると辛くなるから

もう、それは思わない

 

いまは彼岸で

しあわせに満足していると信じている

 

昔、何度も挫折した辻邦生の『西行花伝』

今度こそ読み通そう