僻地で働く医者として思うこと Part1  志望校選び:どこの医学部を志望すべきか | KMMのブログ

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人口700人程の村にある僻地診療所での勤務が終わり、現在は大学病院で勤務しています。
診療を通じてたことや、個人的に気になったことなど適宜書いていこうと思います。

私は自治医科大学という医学部を卒業し、現在人口700人程の村の僻地診療所で働いています。

本当にのんびりした場所です。医者になって何年か経ち、医学部受験のことであったり、学生生活のこと、また現在の医療の問題点などに対し、色々考える・感じることが増えてきたので、このブログを通して、少しでも発信していけたらなあと思い、色々と綴っています。

 

さて今日は志望校選び:つまりはどこの医学部を志すべきか について、完全に個人的な意見ですが、書いていこうと思います。皆さんの反感をかいそうなことも書いているので、ある医者の一意見くらいに思って、参考にしてもらえたらと思います。

 

まず、はじめに少し考えて欲しいのですが、

 

もしあなたが現役で医学部に合格して、25歳から医者として働けたとします。そして健康上の都合で、65歳ちょうどで医者を完全にリタイアしなければいけなかったとしましょう。

最初の研修医2年は年収500万 

医師3年目〜10年目までの8年間は年収1000万 

11年目〜20年目までの10年間は年収1200万

21年目から65歳で医者をリタイアするまでの間は年収1500万を稼げる医者であったとします。

この場合、生涯医者としてあなたが稼ぐお金は

2×500万+8×1000万+10×1200万+20×1500万=5億1000万円になります。

しかし、もしあなたが1浪して、26歳から医者をはじめることとなった場合、65歳でリタイアするまでに稼ぐお金は

2×500万+8×1000万+10×1200万+19×1500万=4億9500万円になります。

 

なにが言いたいかというと、医者になることが1年遅れるということは、このケースでいうと1500万円稼げるお金が減る訳です。

もしあなたが医者のキャリア終盤で年2000万円稼げる医師であれば、2000万円を稼げなくなる、つまり間接的には失うということになります。

さらにその上に、予備校に通うのにかかったお金が出費としてプラスされると思ってください。

 

もし2年浪人して、1年留年か国試浪人している方であれば、この計算であれば、人生において5000万から6000万円を間接的に失っていることになります。

 

これは僕が高校3年生のセンター試験前に医者である父親から言われたことです。

父親からは「医者になったらどこの大学出たとかそんなことを気にする奴なんて誰もいない、患者さんもそんなところはほとんど見ていない。そいつが医者として優秀かどうか、評価されるのはそこだけだ」と。

私自身も医者として働いていると、出身大学がどこかなんてことは、本当関係がないことだとつくづく思います。

もしあなたが難病にかかって難しい手術を受けなければいけないとなったときに、東京大学出身のあまり評判のよくない医者に手術してほしいか、または地方大学出身だけど手術の腕は一流と評されている医者に手術してほしいか、どちらがいいか考えてみてください。私なら迷わず後者を選びます。

 

つまり何が言いたいかというと、合格できる可能性が高くない偏差値の高い医学部を目指すのであれば、偏差値を下げてでも確実に合格できる医学部を目指すようにして、出来るだけ早く医学部に入るようした方がいい、これが今日私が言いたいことです。

偏差値の高い医学部を目指すが故に、浪人を重ねて、血を吐くくらいに勉強をするのであれば、ハードルを下げてでも、現役で入れる医学部に入って、その分、医学部での勉強を頑張った方が遥かに効果的だと思うのです。

 

よく浪人を繰り返してでも偏差値の高い医学部を目指そうとする受験生が言いそうなことですが

 

① 出来るだけ多くの人を救いたい

・・・・・そう思うなら1年でも早く医者になることを目指すべきだと思います。1年でも多く医者として働ければ、それだけ多くの患者さんの命を救うことが出来ます。

 

② より多くの収入を得たい

・・・・・・それも早く医者になることです。上でも書いたことですが、1年医者になるのが遅れることは、間接的に多くのお金を失っていることになります。どこの大学に行っても医師免許は一緒です。出身大学によって給料が違うみたいな病院はありません。早く医者になること、そこで人より多く勉強して、信頼される医者になることがすべてだと思います。

 

③ 設備がより優れた病院で働きたい 関連病院が多い大学病院がいい

そう思うなら学生の間しっかり勉強して、研修医になるときに、設備がより優れた病院をマッチングで希望するなり、関連病院を多くもつ大学病院での研修を希望すればいいだけの話です。仮に研修医の時はマッチングで引っかからなくても、その病院への強い思いを持っているなら、3年目になる時に、後期研修として再度希望すればいいだけのことのように思います。後期研修医として来てもらえるなら、どの病院も基本歓迎してくれると思います。今はどこの病院(特に大学病院は)も、のどから手が出るほど医者を欲していますから。東京大学附属病院や京都大学附属病院で働いている方も、東京大学や京都大学出身の方ばかりではないでしょう。半分くらいは他大学出身の方だと言う話も聞いたことがあります。あなたが優秀な人材であれば、そしてその病院で働きたいという強い熱意を持っているのであれば、出身大学がどこであるかなんてことは、全く影響しないことだと思います。

 

④  偏差値が高い大学は、優秀な学生が多く、教育プログラムが優れていそう

こんなことを言うと失礼かもしれませんが、そんなことはないと思います。旧帝大などの医学部は特に、医学教育にそこまで力を入れておらず、放任主義な部分はあるように思います。もし本当にそうであれば、東京大学や京都大学が毎年、医師国家試験の合格率でトップに来るはずでしょう。でも実際は全然違います。偏差値の高い大学は、優秀な学生は確かに多いかもしれません、ただ医学部での優秀な学生は、膨大な医学的知識を正確に暗記できる、そして暗記するための努力ができる方です。偏差値の高い医学部に入学するために要求される能力とは全く違います。

本気で優秀な学生が多く、教育プログラムが優れていそうな医学部に入りたいと思うのであれば、偏差値の高い大学ではなくて、医師国家試験で毎年高い合格率を出している医学部を目指す方が理にかなっている気はします。

 

 

と長々と書いてきましたが、おそらくこの記事を読んでも、やはり偏差値の高い医学部に絶対に行きたい、そのためなら何浪することも厭わないみたいな方は沢山いらっしゃるでしょう。

 

ジョジョの奇妙な冒険にこんなセリフがあります

 

「オレは『納得』したいだけだ!『納得』は全てに優先するぜッ!!でないとオレは『前』へ進めねぇッ!『どこへ』も!『未来』への道も!探す事は出来ねえッ!!」

 

浪人を重ねても、なお旧帝大のような偏差値の高い医学部を目指している受験生に、「なぜその医学部じゃないとダメなのか?他の医学部じゃ絶対に叶えられないような夢か目標でもあるのか?」と聞いても、誰も明確な答えなどを持ち合わせてはいないでしょう。

医者が働く現場をほとんど知らない受験生に、医者としての明確な夢や目標を抱くことなど出来るはずのないことです。

 

では何故浪人を重ねてでも偏差値の高い医学部に行きたいのか、その答えはおそらく自分の中で「納得がしたい」のでしょう。

「納得できる」 これこそが何よりも優先すべきことだと、心が叫んでいるからではないでしょうか?  

と私は勝手に考えています笑

 

そのような方は、たとえ将来辿り着く医者の像が全く同じものであっても、地方大学の医学部からでは自分の心が納得してくれないのでしょう。

 

自分の心が納得すること、確かにそれは、何よりも自分を推進させてくれる力になるものなのでしょう。

 

そしてきっとそれは、何千万円というお金よりも価値のあるものなのかもしれません。

 

ではでは