テキサスからごきげんよう。約1週間ぶりの更新になります。私にしては頑張ってる方だと言えるでしょう。世間一般には12月24日はクリスマス・イブですが、進級試験を前にした院生にはそんなの関係ありません。ひたすら試験勉強です。

北テキサス大学の政治学部Ph.D.課程では、通常3年目の1月になるとComprehensive Exam(通称Comp)という試験を受けさせられます。アメリカの政治学Ph.D.プログラムは時期が違ったり(2年目の終了時点とか)名前が違ったり(Field Examとか。どうやらうちの大学も正式名称はField Examinationsらしい?)、形式が多少異なったりしますが、どこの大学でも大体同じような試験があります。

うちの大学の場合、形式は1フィールドにつき48時間のtake-home examです。American Politics(AP)、Comparative Politics(CP)、International Relations(IR)、Political Theoryから二つ受けます。Political Methodologyは三つ目のサブ・フィールドとして選択することはできますが、試験はありません。今年は1月18-22日の日程で試験が行われ、18-19日に一つ目、中一日空けて21-22日に二つ目の試験を受けます。各分野について3つの問いに答えて、合計で8000-10000wordsぐらいの答案を書きます。1日目の午前0時からオンライン上で試験問題が公開され、2日目の午後11時59分までに答案を提出します。なかなか非人道的です。

自分は一つ目のフィールドをIR、二つ目をAPにしています。IRは特に心配してませんが、APの勉強がとにかく大変です。正直恐怖でしかありません。なにせ、アメリカに渡るまでアメリカ政治の勉強なんてしたことがありません。渡米してから2年経った今でさえよくわかりません。そんな中で、アメリカ人の院生と同じ試験を受けなくてはありません。どうやら留学生はCPとIRの組み合わせでCompを受ける人がほとんどだそうです。アメリカ政治の具体的な知識にハンデがあるのでそれも納得です。というか、IRとAPの組み合わせにする人はアメリカ人ですらほぼいないそうです。CPとIRの分野的な親和性も高いのでそれも納得です。

じゃあなんでAPを二つ目に選んだかと言えば、一つは手法的な問題です。自分は研究にサーベイ実験を使いたいと思っていたのですが、IRやCPにはやってる先生がおらず、かたやAPではサーベイや実験はメジャーな分析方法なので、APの方が方法論的な知識やスキルは鍛えられるかなという目論見がありました。もう一つには、さきほども言った通り、IRとCPは親和性が高いのですが、高すぎて新しいアイデアが生まれにくいのではないかという直感がありました。例えば、国家間紛争と内戦は異なる政治現象であり、前者はIR、後者はCPで扱われるトピックなのですが、どちらも情報の非対称性やコミットメント問題などといった共通した原因があり(Cunningham and Lemke 2013、Fearon 1995、Fearon 1998)、現象の説明の仕方が似通っているところがあります。一方、Kenneth Waltz(2001[1959])以来、国際的な現象(e.g. 国家間紛争)の国際的要因(e.g. パワーバランス、敵対関係)による説明の方が先に発展して、だんだん状況は変わっているものの国内的要因や個人的要因の研究は発展途上段階にあるので、「APの制度論や政治心理学の知見をIRに輸入してきた方がIRの発展に貢献できるのでは?」という目論見がありました。

で、これらの目論見がまったくの見当はずれだったとは思わないのですが、いざCompのために勉強する段階に入るとなかなかしんどいです。APは制度論(Institution)と行動論(Behavior)の二つに大別されます。前者はアメリカの政党・大統領制・裁判所・利益団体・メディアといった諸制度について扱い、後者では政治心理学・政治的態度・党派性・投票行動・政治参加などを学びます。

この二つのうち、外国人研究者にとって行動論は比較的とっつきやすい気がします。というのも、アメリカのデータを使ったり、アメリカ人の政治的意識や態度にフォーカスしてたりはしますが、基本的に理論的な説明が一般的なものだからです。なので、(あった方が理解は早くなるでしょうが)アメリカ政治についての前提知識がなくてもある程度なんとかなります。他方、制度論はアメリカに特化したものが多く、他国のことや一般化可能性なんてそもそも考えてないような研究が非常に多い印象です。アメリカ政治の歴史(それこそ建国の理念とか)や制度の細かい知識を知らないと話にならないことが多々あります。排他的だなと思うことすらあります。きっと、日本の政治制度について学ぶ留学生もこういう気持ちなんでしょう。ですので、制度論の勉強はなかなか捗っていません。

とはいえ、試験に合格しないと退学なので、やらざるを得ません。Compは2度チャンスが与えられます。2回落ちたら強制退学です。例年、1回目にどちらかもしくは両方のフィールドを落とす院生がいます。2回連続で落とされる人はあまり聞いたことがありませんが、2回目を受ける前に自分から退学を選択する人は聞いたことがあります。

試験勉強でこれをやってくださいというものは大学から指定されてないので、これまでの授業で課された文献をもう一回読んで復習する人、Oxford HandbookやAnnual Review of Political Scienceなどから出版されているレビュー論文を読む人、やり方は様々みたいです。自分はこれまでの授業(特にProseminar in American Political InstitutionsとMass Political Behavior)のシラバスで、授業内では扱わなかったけどAdditional Readingsに入っている文献をひたすら読んでいます。自分が作ったリストには150本ぐらいの文献があります。なんか、一度読んだ本や論文って、もう一回読んでも理解が深まった気がしないんですよね。刺激が少ないというか。それよりか、新しいものを読んで、「あぁ、前にこの論文読んだな。この著者はこういう理解をしてるのか」と思い出す作業をする方が経験上記憶の定着にとって効果的なので、そういう勉強の仕方をしています。

というわけで、心身ともに寒い冬を過ごしていますが、この冬を越えればようやく博論で自分の研究に専念できるようになります。これからアメリカのPh.D.プログラムに挑戦する人にとって墓標とならず希望となれるように、なんとか生き残ってみせます。良い報告ができるように頑張ります。

今回はこんなところです。ではでは。

追記(01/18/21): 学部から連絡があり、今年は一つ目の試験を18日午前8時から20日午前8時まで、二つ目を22日午前8時から24日午前8時までの日程で行うことでした。誤情報すみません。想像してたより少し人道的になった気はしますが、「土日に試験やるのかぁ……」という気持ちにはなってます(笑)

Cunningham, D. E., & Lemke, D. (2013). Combining civil and interstate wars. International Organization, 609-627.
Fearon, J. D. (1995). Rationalist explanations for war. International Organization, 49(3), 379-414.
Fearon, J. D. (1998). Commitment problems and the spread of ethnic conflict. The International Spread of Ethnic Conflict. DA Lake and D. Rothchild. Princeton, NJ, Princeton University Press, 52, 269-305.
Waltz, K. N. (2001[1959]). Man, the state, and war: A theoretical analysis. Columbia University Press.