今年の頭あたりから共著で観衆費用(audience costs)の研究をし始めました。観衆費用についてはこのブログでも書いたことがあるのですが(なんで当時はです/ます調じゃなかったのに今はそうなってるのかは不明)、平たく言うと観衆費用とは「やると言っておいてやらなかった時にそれを見ている人たちから罰せられることによって発生するコスト」のことを指します。最近では、やらないと言っておいてやった場合のコスト(Levy et al. 2015)や言行の不一致じゃなくて政策そのものを支持しないタイプの観衆費用(Kertzer and Brutger 2016)も提起されていますが、基本的には最初に述べたタイプの観衆費用が議論されることが多いです。Fearon(1994)以降、観衆費用は国際関係論において最も注目を浴びてきたトピックの一つです。 「国内観衆が選挙等で指導者を罰することができるから、民主国の方が観衆費用が大きく、それゆえ国際危機において民主国の威嚇の方が信憑性が高くて有利な結果を得やすい」といった主張は、様々な角度から理論的・経験的に研究されています(e.g. Partell and Palmer 1999; Smith 1998; Tomz 2007; Weeks 2008)。前から観衆費用面白いなとは思っていたのですが、今の共著者から「一緒に研究しない?」と誘われて、本格的に研究し始めました。

で、この観衆費用の知識は意外と自分の生活で役立っています。例えば、秋学期から入ってくる新大学院生のためのGraduate Student Orientationで、各フィールド(American Politics、Political Theory、Comparative Politics、International Relations)から一人ずつ院生が研究のプレゼンをする時間が設けられています。IRについては、自分でプレゼンをやりたいと言って、実際にやることになりました。自分からプレゼンをやると言っておいてドタキャンしたり変なプレゼンをして、「こいつダメだな」と教授陣や他の院生から思われるという観衆費用が発生する状況を意図的に作ることで、研究するモチベーションを上げようという発想です。

また、現状共著プロジェクトの方が単著よりも順調に進んでいるのですが、これも観衆費用の効果かもしれません。単著だと「いつまでにこれをやる」と決めていても罰してくれる人がいないので、どうしてもダラけてしまいがちです。その点、共著の場合は共著者が制約になってくれるので、「いつまでにこれをやらなきゃ!」という気持ちになります。誰にも見られず何も言われず、自分で決めたことをやり続けられる精神力のある人は本当に尊敬に値しますが、自分はそこまで精神力が強くないので、だったらやらざるを得ない状況を自分で作ろうという考えになっています。

というわけで、文系の研究は訳に立たないとか助成金を与えるに値しないとか言われがちですが、少なくとも観衆費用の知識は自分の日常に活かされています。変な着地の仕方で申し訳ないです(笑)が、引き続き研究頑張ります。

Fearon, J. D. (1994). Domestic political audiences and the escalation of international disputes. American political science review, 88(3), 577-592.
Kertzer, J. D., & Brutger, R. (2016). Decomposing audience costs: Bringing the audience back into audience cost theory. American Journal of Political Science, 60(1), 234-249.
Levy, J. S., McKoy, M. K., Poast, P., & Wallace, G. P. (2015). Backing out or backing in? Commitment and consistency in audience costs theory. American Journal of Political Science, 59(4), 988-1001.
Partell, P. J., & Palmer, G. (1999). Audience costs and interstate crises: An empirical assessment of Fearon's model of dispute outcomes. International Studies Quarterly, 43(2), 389-405.
Smith, A. (1998). International crises and domestic politics. American Political Science Review, 92(3), 623-638.
Tomz, M. (2007). Domestic audience costs in international relations: An experimental approach. International Organization, 61(4), 821-840.
Weeks, J. L. (2008). Autocratic audience costs: Regime type and signaling resolve. International Organization, 62(1), 35-64.