アメリカ留学前に親不知なんとかしようと思ってこの間抜いたのですが、正直めちゃめちゃ痛いです。これ出国前に痛み収まるのでしょうか。

さて、この前なんとなく往年のWWE(World Wresteling Entertainment。ちなみに彼が活躍していた時代はWWF、World Wrestling Federationという団体名でした)のプロレスラーであるストーン・コールド・スティーブ・オースチンのインタビュー動画を見ていたのですが、"Did you have a real backstage heat with any other wrestlers?"という質問をされて、"No...Your life is in their hands and vise versa."と言っていたのが面白かったです(動画の21分30秒あたり)。ケガなく、長くプロレスラーとして活躍するには他のレスラーと良い関係を築かなければならないということですね。WWEは昔から好きでちょくちょく見ていたのですが、ストーンコールド(彼が北テキサス大学の卒業生であることは最近知りました)はリングの上ではとにかく体制に楯をつく荒くれ者というキャラで売っていたので、裏ではこんなこと考えていたんだと興味深かったです。この話を聞いて、どこの世界でも評判って大事なんだなと思いました。


自分は国際政治における評判(reputation)が主たる研究関心なのですが、最近は政治学以外で評判がどのように議論されているかチェックしていて、結構面白いです。評判の研究は政治学以外にも進化生態学、経済学、心理学、社会学などでも発達しているのですが、これらの分野の共通見解は評判は協力(cooperation)をもたらす重要なメカニズムの一つということです。

評判の重要性を理解する上で大事な概念の一つは、間接互恵性(indirect reciprocity)です(Nowak and Sigmund, 1998; Nowak and Sigmund, 2005)。間接互恵性とはようするに「情けは人のためならず」、人に対して情けを掛けておけば,巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという考え方です。間接互恵性の存在は、多くの実験で確かめられていますし(例えばMilinski et al., 2001)、なんなら魚の間でも間接互恵性が確認できるという研究結果もあります(Bshary and Grutter, 2005)。協力することにはコストがかかりますが、それでも間接互恵性から受けられる報酬が多ければ、より協力したくなるということになります。

関連して、パートナー選択(partner choice)の際に評判が重要になってくるという研究もあります。過去に協力してきた人と他人を裏切ってばかりの人、自分がどちらと協力したいと思うかというと、大体の人は過去に協力してきた歴史を持っている人をパートナーに選ぶと思います。例えば Barclay(2010)は個人プロフィールに過去にボランティアをやっていたとか、人のために働くのが好きですとか書いていると、恋人(romantic partner)に選ばれやすくなるという研究結果を発表しています。国際政治でも、同盟のコミットメントを守っていると新しい同盟が形成されやすくなる(=同盟のパートナーとして選ばれやすい)というGibler(2008)の研究などはこの発想に近いと言えます。

ちなみに評判のために投資しようという行為は必ずしも意識的である必要はありません。ただ「他の人から見られている」という手がかり(cue)があるだけで、人は評判を気にしてより協力的になり得ます。例えばBatesonら(2006)によれば、人間の目のイメージに貼った日は、花のイメージを貼った日に比べて、honesty box(日本語だと無人販売所?)への支払い額が約三倍に増えたとのことです。ただの画像なので、別に払わなくても誰かから罰を受けるということは無いのですが、人に見られている意識が強くなるだけで協力的になることを示しています。発達心理学の分野では、こうした評判を気にする意識は、だいたい5歳ぐらいの時には発達していることがわかっています(Engelmann et al., 2012)。

このように各分野で評判の研究は発達してきているわけですが、そういう意味では国際政治学における評判の研究状況はやや特殊と言えるでしょう。というのも、国際政治においては評判は重要ではないという考え方も根強いからです。特に、以前にも紹介したDaryl Press(2005)政策決定者は威嚇の信憑性を計る時に敵対国の過去の行動を見ていないという研究結果は有力です。評判は重要ですよという研究も蓄積されてきてますが(例えば、Weisiger and Yarhi-Milo, 2015)、じゃあなんでPress(2005)がこういう研究結果になったのかは結構興味あります。

Pat BarclayのTED動画がYouTubeに上がっていたのでシェアします。あと、Barclay(2012)も上記に述べた話をいい感じにまとめています。国際政治の評判だと、評判以外のものも扱っていますが、やっぱりDafoeら(2014)のレビュー論文が参考になりますかね。評判と「情けは人のためならず」の話は山岸俊男先生の本に出てきます。山岸先生の著書はどれも面白いですが、個人的には『社会的ジレンマのしくみ―「自分1人ぐらいの心理」の招くもの』(1990)と『ネット評判社会』(2009、吉開範章との共著)がオススメです。軽めのものであれば、『日本の「安心」はなぜ消えたか―社会心理学から見た現代日本の問題点』(2008)も、もう10年前に書かれた本になりますが、今の日本の現況にも多くの示唆を与えてくれます。興味ある方はぜひ。

 

 

 

 

 

 


Barclay, P. (2010). Altruism as a courtship display: Some effects of third‐party generosity on audience perceptions. British Journal of Psychology, 101(1), 123-135.
Barclay, P. (2012). Harnessing the power of reputation: strengths and limits for promoting cooperative behaviors. Evolutionary Psychology, 10(5), 868-883.
Bateson, M., Nettle, D., & Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology Letters, 2(3), 412-414.
Bshary, R., & Grutter, A. S. (2005). Punishment and partner switching cause cooperative behaviour in a cleaning mutualism. Biology Letters, 1(4), 396-399.
Dafoe, A., Renshon, J., & Huth, P. (2014). Reputation and status as motives for war. Annual Review of Political Science, 17, 371-393.
Engelmann, J. M., Herrmann, E., & Tomasello, M. (2012). Five-year olds, but not chimpanzees, attempt to manage their reputations. PLoS One, 7(10), e48433.
Gibler, D. M. (2008). The costs of reneging: Reputation and alliance formation. Journal of Conflict Resolution, 52(3), 426-454.
Milinski, M., Semmann, D., Bakker, T. C., & Krambeck, H. J. (2001). Cooperation through indirect reciprocity: image scoring or standing strategy?. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 268(1484), 2495-2501.
Nowak, M.A. and Sigmund, K. (1998) Evolution of indirect reciprocity by image scoring. Nature 393, 573–577.
Nowak, M.A. and Sigmund, K. (2005) Evolution of indirect reciprocity. Nature 437, 1291–1298.
Press, D. G. (2005). Calculating credibility: How leaders assess military threats. Cornell University Press.
Weisiger, A., & Yarhi-Milo, K. (2015). Revisiting reputation: How past actions matter in international politics. International Organization, 69(2), 473-495.
山岸俊男(1990)『社会的ジレンマのしくみ―「自分1人ぐらいの心理」の招くもの』サイエンス社。
山岸俊男・吉開範章(2009)『ネット評判社会』エヌティティ出版。