ご無沙汰してます。出国日が近づいてきてバタバタしてますが、暑さにも負けず比較的元気です。
今日は留学先であるノーステキサス大学の紹介がてら、ICOWデータセットのご紹介でもしたいと思います(ずいぶん前にATOPとMCTを紹介していて今回は第三弾ということで、③という数字を振っておきます)。

Issue Correlates of War(ICOW)データセットは、ノーステキサス大学のPaul Henselらが開発している、争点(issue)に着目データセットです。リアリストはそれまで国際政治を力(Morgenthau, 1967)や安全保障(Waltz, 1979)をめぐる闘争と捉えてきましたが、実際に軍事紛争が発生する時は領土・領海・河川・アイデンティティなど、なんらかの争点を巡って発生することがほとんどです(Hensel, 2001)。また、ある二つの国家がある争点を巡って争っていたとしても、必ずしも軍事紛争に至るとは限りません。平和的な合意の形成によって解決されることもありますし、あるいは軍事的な解決も平和的な合意もなく紛争が続くこともあります(ibid)。どの争点も同じ確率で軍事紛争になるとは考えにくいですし、実際に先行研究では領土を巡って争っている場合、他の争点と比べて軍事紛争になりやすいことがわかっています(例えば、Vasquez, 1993)。また、ある領土紛争が戦争になるメカニズムが、アイデンティティを争点とするそれと全く同じとは考えにくいです。ICOWは、それぞれの争点内でどのような要因が軍事紛争ないし平和交渉・解決につながるのか、という疑問に答えることを可能にします。

このデータセットは1997年から開発が進められている(Hensel and Mitchell, 2015)のですが、実はまだ完成してはおらず、アイデンティティのデータについてはまだデータを集めている段階だそうです(Paul Henselのホームページ。また、Hensel and Mitchell 2017も参照)。もう20年以上にもなるプロジェクトであり、かかっているお金も相当なものです。Henselのホームページによれば、2015-17年にかけてIdentity Claimのデータセットはアメリカ国防省から合計で約68万ドル(!)の補助を受けているそうです(うち225,525ドルがノーステキサスへ。日本では文系の科研費を減らせとか騒がれてますが、例えばこのICOWなんかはそれだけのお金をかけるに値するプロジェクトだと思うんですけどね……)。さらなるアップデートを控えているみたいなので、自分もこのプロジェクトのRAとして働く可能性が大いにあります。実際に働く段階になって困らないように、データセットの歴史やCodebookやProcedureを熟知しておきたいなと思います。

あと、自分が知らないだけかもしれませんが、ICOWの内戦版は今のところ無いみたいなので、開発したら面白いかもしれません。内戦でも、たとえばUCDPでは内戦がどのような争点を巡って勃発しているのかデータ化していますが、これだと争点は存在するけれども内戦には至っていないケースを含めた分析をすることができません。どうやってデータを集めたら良いのか全然思いつきませんが、一つの方向性として考えておきたいなと思います。

 

追記(8月8日): テネシー大学のKrista WiegandとErik KeelsがIssues in Civil War Dataset (ICW)という データセットの作成を始めたようです。内戦版のICOWがないという認識は間違ってなかったみたいです。ちなみにErik Keelsはノーステキサス大学のPh.Dです。先輩すごい。

Hensel, P. R. (2001). Contentious issues and world politics: The management of territorial claims in the Americas, 1816-1992. International Studies Quarterly, 45(1), 81-109.
Hensel, P. R., & Mitchell, S. M. (2015). Lessons from the Issue Correlates of War (ICOW) project. Journal of Peace Research, 52(1), 116-119.
Hensel, P. R., & Mitchell, S. M. (2017). From territorial claims to identity claims: The Issue Correlates of War (ICOW) Project. Conflict management and peace science, 34(2), 126-140.
Mortgenthau, H. J. (1967) Politics among Nations, 4th ed. New York: Alfred A. Knopf.
Vasquez, J. A. (1993) The War Puzzle. Cambridge: Cambridge University Press.
Waltz, K. N. (1979) Theory of International Politics. New York: McGraw-Hill.