昨日に引き続きブック・レビューです。
今回は、Mark CrescenziのOf Friends and Foes: Reputation and Learning in International Politics (2018, Oxford University Press)の紹介をします。自分の知っている限り、国際政治における評判で一番新しい本がこれですね。Mark Crescenziはずいぶん昔から評判の研究やっていて、論文も多数出版しています。

 

内容は昔の論文と被る部分も多いですが、結構面白かったです。Jonathan Mercer(1996)やDaryl Press(2005)といった人たちが、国際政治において評判は重要ではないし、また形成されないと議論しているけど、それは国際危機みたいな場面に限った話であって、ある国家は別の国家が自分の味方や敵をどう扱っているかを見ている。評判は国際関係の紛争(conflict)と協力(cooperation)どちらの局面においても重要なのだ、というのが基本的な趣旨です。

この本は理論と実証パートに分かれています。理論パートでは、ある国家の評判がどのように形成される考えられるのかを、具体的な歴史的事例を交えつつ、一本の方程式にしてモデル化しています。このモデルが結構シンプルなので理解しやすかったです。理論パートで提示されたモデルを実証パートでは計量分析に落としこんでいます。紛争パートの従属変数は国家間軍事紛争、協力パートは同盟の形成です。紛争を起こしやすい(conflictual)という評判を有しているとその後も軍事紛争が勃発しやすく、また過去に同盟の約束を履行している国は将来にわたっても新たな同盟を組みやすいという実証結果になっています。

前に種論文を読んだ時は、紛争パートで述べていることは「これって過去に紛争してる国は紛争起こしやすいってだけじゃね?」思ったはずなのですが、あらためて読んでみたらそのインプリケーションは結構面白かったです。国家は軍事行動を、自国の戦う意思を示すシグナルとして利用することがあります。こうした考え方は抑止理論に基づいたものではありますが、Crescenziの研究結果は、むしろそういった行動は軍事紛争を抑止するのではなく、むしろ助長してしまうことを示唆しています。

一方で、「それはそうだよね」と思ってしまう部分が多く、驚きに欠ける印象でした。もちろん、「国際政治において評判は重要だ」という当たり前を否定するMercerやPressがいるからこそ、当たり前のことを論じる意義があるのですが、それでももう少しアクロバットな論理展開が欲しかったのも事実です。

とはいえ、Crescenzi自身が述べているように、彼の理論は軍事紛争や同盟以外にも適用可能なものなので、実証研究の余地はたくさんありそうです。評判研究に将来の展望を与えたという意味で、非常に意義深い研究だと言えると思います。

 

Crescenzi, M. (2018). Of Friends and Foes: Reputation and Learning in International Politics. Oxford University Press.

Mercer, J. (1996). Reputation and International Politics. Cornell University Press.

Press, D. G. (2005). Calculating Credibility: How Leaders Assess Military Threats. Cornell University Press.