8月5日をもって計量分析のエセックス大学サマースクールが終わった。最終日に受けたテストは全くもって自信がないが、ともかく非常に有意義な講義だった。二週間にわたって講師を勤められた千葉大奈先生には感謝申し上げたい(千葉先生の情報についてはこちらから)。

個人的にはBTSCS(binary time-series cross-sectional)アプローチについて少し理解が深まったのがよかった。BTSCSアプローチとは、本来ならWeibull分布モデルやCox比例ハザード・モデルでやる生存時間分析(duration analysis)を、BTSCSデータに変換することによってロジット分析やプロビット分析でやっちゃおう!というものである(Beck et al. 1998)。

生存時間分析とは、あるイベントが起こるまでの期間についての分析である。例えば、ある国家が民主制であった場合に、民主制が崩壊することがありうる。それは、政権交代やクーデターによるものかもしれないし、国際的な第三者の介入で引き起こされるかもしれない。そのような危険性が、いかなる要因によって変化するのかを分析するのが、生存時間分析である。

国際関係では生存時間分析の論文をよく見かける。国際関係が、比較的よく期間を扱う学問だからだろう。最近読んだ大国の軍事介入に関する論文も、Cox比例ハザード・モデルを用いて、大国が軍事介入を行った後に、目的を果たさずに撤退した期間について分析を行っていた。そこでの結論は、行政長官が右寄りの党に所属していると、支持率が高くなればなるほど撤退という決断をしなくなるが、左寄りだと支持率が高いと撤退しやすい、というものであった(Koch and Sullivan 2010)。彼らは軍事介入してから撤退するまでの期間を扱っているので、生存時間分析と整合的なテーマであると言える。

ではあるのだが、どういう時にどういうモデル(パラメトリックなモデル、ノン・パラメトリックなモデル、BTSCSアプローチに基づいたロジット分析など)のいずれを用いたらよいのか、よくわからないでいた。例えば、Leeds and Suvan(2007)とLeeds et al.(2009)は共に同盟の終焉(termination)を従属変数としておきながら、前者はCox比例ハザードモデルを採用し、後者は時間依存を考慮したロジット分析を行っている。今回の講義で、Cox比例ハザードモデルだろうがBTSCSアプローチのロジット分析だろうが基本的には同じことをやっており、時間の変化によってイベントの発生率がどのように変わると「理論上」予測されるか、どの程度の解釈のしやすさが求められるかなどを基準に、モデルを採用すべきだということがわかった。今後は、軸となるモデルを一つないし複数選んで(例えばロジット分析)、頑強性チェックとして他のモデルも試してみる、というのがトレンドになっていくと思われる(7月に別の授業で読んだ、World Politicsに掲載される予定のKnutzen et al.(2015)も、すさまじい数の統計モデルを走らせていた。内容は、非民主制における選挙は、短期的には体制の不安定性をもたらすが、長期的には安定性をもたらす、というものである)。

とはいえ、僕の計量分析についての知識は素人に毛が生えた程度なので、今後もこのようなサマースクールやセミナーに参加していきたい。ICPSRにも行ってみたいなぁ。

Beck, N., Katz, J. N., & Tucker, R. (1998). Taking time seriously: Time-series-cross-section analysis with a binary dependent variable. American Journal of Political Science, 42(4), 1260-1288.
Koch, M. T., & Sullivan, P. (2010). Should I Stay or Should I Go Now? Partisanship, Approval, and the Duration of Major Power Democratic Military Interventions. The Journal of Politics, 72(03), 616-629.
Knutsen, C. H., Nygard, H. M., & Wig, T. (2015). Autocratic Elections: Stabilizing Tool or Force for Change?. Manuscript. Department of Political Science, University of Oslo.
Leeds, B. A., & Savun, B. (2007). Terminating alliances: Why do states abrogate agreements?. Journal of Politics, 69(4), 1118-1132.
Leeds, B. A., Mattes, M., & Vogel, J. S. (2009). Interests, institutions, and the reliability of international commitments. American Journal of Political Science, 53(2), 461-476.