5月31日、非常に(いや、異常に)長く時間がかかった会計調査委員会の報告書の要旨等が公表されました。

昨年4月、わざわざ公表する道を自ら選んだ事件です。長年理事として水田体制を支えながら、水田さんが不正経理を理由に解任された直後に理事長に就任し、コンプライアンスを強調していた上原明理事長自ら会見するのかと思いましたが、違ったようです。

 

さて、若干の感想を。

 

1 全文を公表すべきではないのか。

待ちに待たれた最終報告書。予想通りではありますが、要旨の公表に留まりました。なぜ全文公表しないのでしょうか。

富士フイルムホールディングスのケースでは、取締役会の決議に基づき第3者委員会が設置され、わずか2か月弱で200頁にもわたる報告書を作成し、全文が公表されています(報告書を比較してみてください)。全文公表により、どのような経緯で委員会が設置、委員が選任され、どのような調査が行われ、どのように事実認定をしたのかを明らかにして、その調査内容の透明性を確保し、第三者の評価に委ねなければ、その社会的責任を果たすものとは言い難いと思います。そうすることは、学校の公共性を強調する会計調査委員会の意に沿うように思われます。現在のような「要旨」だけでは、水田さんの体制に不適切な経理があったというメッセージしか伝わりません。会計調査委員会の無謬性を前提にしない姿勢こそが求められます。第三者委員会報告書も評価される時代であり、それを踏まえてこそ、現理事長が言われるコンプライアンスの徹底に資するというものです。

 

なお、文科省で文科省OBが記者会見しているのに、文科省はこのような取り扱いを是とするのでしょうか。水田さんは、そろそろ、この問題のきっかけである学校運営調査の実態(文科省の役人が大声を上げた事例)と文科省の「厳しい意向」に焦点を当てて、別の角度からも問題に切り込むべきでしょう。

 

2 水田さんの出した会計調査委員会に対する疑義に回答すべきではないか。

会計調査委員会は、水田さんに遵法意識・倫理観が欠如していると非難しています(26頁)。ここまで人を非難するのであれば、せめて、調査の過程で、その設置過程・委員の人選・事務局の不透明さ・不公平さなど、委員会自らについて水田さんから書面をもって疑義を呈された事実も報告書に示し、それに対して説得的な理由を述べるなど、自らにも厳しくあるべきだったと思います。残念です。

 

3 「理事会決議」絶対主義の不思議

調査対象として縷々述べていますが、世間をにぎわすに足る「億単位」の不正経理の本質的な部分は、退職金等の支払が手続要件(理事会決議)を欠いているという点(水田清子名誉理事長と水田さん本人)でしょう。

この点、たとえば、要旨23頁では、次のように述べています。

 

「学校法人の役員に対する報酬等の支給については、公益法人として、会社より高度の公益性が求められる学校法人においては、寄附行為に定めるなど同様の取り扱いが望ましいが、最低限、理事会の支給決議が必要であるとすべきである。」

 

会社とは違うという委員の方々の高度な倫理観や理想は理解できますし、素晴らしいことだと思いますが、私立学校法は、公益財団法人とは異なり報酬について規制を設けていません(PPT17頁の比較表、さらに、会計調査委員会委員の先生が運営されるブログも。)。

私立学校法1条は、いいます。

 

「この法律は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって、私立学校の健全な発展を図ることを目的とする。」

 

この趣旨からすれば、公益財団法人とは異なり、私立学校があくまで「私」の存在であることに鑑み、私立学校法に報酬規制が存在しないと解釈するべきではないでしょうか。法規制がないのですから、ないだけの理由があるはずです。会計調査委員会は「補助金」を盾にやたらと学校の公共性を強調しますが、だからといって、理事会が常務理事会や特定の理事に個別的・具体的に委任しなければ、理事会決議が必要だという極めて厳格な解釈は、この委員会独自の見解ではないでしょうか(そうでない見解についてはずいぶん以前に紹介しました

また、「理事会で定める」としているのは10.3パーセントにすぎないというデータが、私立学校法の代表的概説書、俵正市「解説私立学校法(三訂版)139頁にでています。また、そもそも報酬規程が存在している法人が13.9パーセントにすぎません。このような実態に照らしても、学校法人城西大学にだけ理想的な厳格基準を当てはめる理由がよくわかりません)。何らかの公権的解釈(政府答弁や裁判例)が根拠として報告書全文で指摘されているのでしょうか。公権的な解釈が示されていないのであれば、委員4人の独自の見解で水田さんを一刀両断にするのは、あまりに水田さんに酷ではないかと思われます。

なお、要旨17頁(2(1)ア)に指摘されているとおり、当時の法律顧問事務所の内部調査により、名誉理事長及び水田さんへの退職金支払について「問題がない」という結論が出されていた事実も存在します。要するに、別の法律専門家が会計調査委員会とは異なる見解を述べている、ということです。証拠や証拠評価はそれぞれ異なるのでしょう。どちらが正当か、いずれ裁判で明らかになるでしょう。

 

会計調査委員会が問題とする支出金額の大部分を占める退職金・功労金・弔慰金は、大学のお金で不動産・株・外債などに無断で投資をしたとか、海外に隠し口座があるとか、カジノで遊興費に使っているといった類のものとは全く異なり、その支出自体、あっても不自然なことではありません。要するに支出の外形(形式面・プロセス面)をとらえた批判であり、本質論としてそれほど説得的とは思われません。

 

4 その他

①議事録の捏造

議事録の捏造なども認定しているようですが、一方で小野先生らは水田さんをワンマンな運営だったと非難しています。本当にワンマンなら、そんな捏造する必要が全くありません。淡々と思うような議事を決議していけばよいだけであり、捏造の動機がありません。なぜなら、誰も反対しないのですから(金額を見ても、他の私立大学ではより高額の退職金事例もあるのですから、経営状態のよかった城西において反対する理由もないでしょう)。どのように(人の意図的行為が介在する)捏造を認定したのか、報告書全文の内容が注目されます。その評価を裁判所が支持するか、ですね。

 

②U氏らの刑事告発

報告書要旨では「U氏らによる」とイニシャルになっていますが、最終報告書のポイントでは実名が記載されています。他の常務理事や理事はイニシャルだけなのに、変ですね。

最終報告書のポイント第2の1では、水田さんが、U氏らの告発や文書の配布に対して名誉毀損で告訴するなどの毅然たる態度をとるべきであったと非難しています。ということは、会計調査委員会は、U氏らの告発や文書が真実でないだけでなく、そう信じる合理的な根拠すら欠いた言説であり、名誉毀損で刑事告訴できる内容であったと判断しているということだと解釈されます。この点は、水田さんにとってよかったこと(水田さんがずっと言ってきていること)だと思いますが、にも関わらず、同第4の4で「真相を究明するべき厳格な対応が求められていたが、法人は十分な調査をしなかった」というのはどういうことでしょうか。刑事告訴に値するような真実ではない指摘を受けた水田さんについて、理事会に真相究明の義務が生じるという委員会の指摘は(報告書全文を読めばわかるのかもしれませんが)理解に苦しみます。

 

5 理事の善管注意義務違反について

昨年の中間報告の時点ですでに4億円もの不適切ないし不正経理の存在を認定して水田さんを解任したのに、その時点で、学校法人の公共性に照らして自ら責任をとって辞任する理事がいないのは不思議でしたが、さらに1億円以上が上乗せされたにも関わらず、責任の取り方が報酬のわずか10パーセント(6か月)の自主返納というのには、大いに驚きました。

学校法人の理事会の監督機能及び理事の善管注意義務・忠実義務の重みを理解しているのでしょうか。水田さんと武富さんが悪かった、というだけですか?!小野先生をはじめ、常務理事や理事らは一体どのような報酬を得ているのでしょうか。報酬を得て理事として業務執行に関与し、かつ、理事長を監督してきたはずです。仮にワンマンで何も言えなかったのだとしたら、それは言い訳に過ぎず(そんな子供みたいな言い訳が通じるのでしょうか?)、そのような不作為こそ責任が問われるべきなのではないでしょうか。

にもかかわらず、要旨を見ると、

「元常務理事であるE氏名義の平成21年2月18日付『学外者からの文書等について』と題する文書を配布してU文書に対し反論した。・・・E氏は、当委員会の調査に対し、この文書の作成名義人として自分の名前を使用することを承諾したことはないと述べている。」(17頁~18頁)

「貴法人は・・・(略)・・・城西大学・城西短期大学学長であったF氏名義の『城西大学・城西短期大学教職員の皆さんへ』と題する文書を配布した。なお、当委員会のヒアリングに対してF氏は、この文書は法人本部が作成したもので名前が使用されたと述べている」(20頁)

と、いずれも常務理事・理事の発言とは思われないような「他人ごと」のような発言が紹介されています。

 

水田さんの倫理観欠如を指摘した会計調査委員会の委員は驚かなかったのでしょうか。仮に、水田さんの体制において不祥事なるものがあるのであれば、その体制内における他の理事の重大な責任の明確化こそ、報告書第7 「ガバナンスの向上に向けた提言」の第一に指摘されてしかるべきものであったと思われます。過去のきちんとした清算なく、未来の理想的なガバナンス確立など絵にかいた餅ではないでしょうか。

 

6 まとめ

以上、報告書要旨を読んだ印象論です。報告書全文は見られませんが、要旨の限りでは、その事実認定の仕方や解釈論は、水田さんの今後の裁判内外での活動に対してそれほど大きな障害になるものではないように思われます。

引き続き、今後の水田さんの裁判内外での反論に注目です。