モコは激怒した。必ず邪知暴虐な父と兄を懲らしめなければならない。モコはただの中学生である。野球バカのあの父子の事は知らぬ。ただ、納得のいかないことには敏感であった。……太宰治『走れメロス』風の書き出しで…。
<激怒其の1>
今日はモコはピアノである。19時半から20時。父は19時に帰ってきて、晩御飯をつくりモコをピアノに連れて行った。ピアノ教室の前で待機すること30分。モコを連れて家に帰った。晩御飯である。
「お父さん、今日はご飯いらない。あまり大きな声では言えないが、兄とかつ丼食べてきた」
モコは激怒した。
「はぁ~!ずるい!いいなぁ~かつ丼。だったら、今モコもラーメン食べたい!雨に濡れて学校から帰ってきて、ピアノを頑張って、さあご飯だと思ったら、かつ丼だぁ~(怒)。なんで呼ばなかったんだよ~(涙)」
済まないモコ。兄を迎えに行った後の帰り道、か●やの前を通った際に唐突に兄が、
「かつ丼食べたい!」
と言う。そういえばこの間もかつ丼食べたいって言っていたよな。車はUターンをし、か●やの駐車場に…。
美味しかったなぁ~、かつ丼とソースかつ丼。今度連れて行くから許せ、モコ。
<激怒其の2>
かつ丼の怒りが収まった食卓。
「お父さんに報告したいことがあります」
「何?」
「昨日のお弁当のカレーだけど」
味にいちゃもんをつけるのかなと思った。昨日のカレーはちょっと……だった。
「私お箸で食べました」
「?????」
「おっ、カレーだと食べようとしたらいくら探してもスプーンがないんですけど。だから、お箸で食べました」
父、平謝り……。
<激怒其の3>
豚肉、トマト、チーズ炒め。鶏がらスープと塩コショウで味付けをし、隠し味に豆板醤。
モコは辛いのが苦手。
「お父さん、何入れました、この炒め物」
「豆板醤」
「辛いんですけど。なんでもキムチ、豆板醤を入れれば美味しくなると思ったら、大間違いなんですけど」
父、聞こえないふり…。