「着いたよ」
「あ・・・ここ・・・!」
「そう。花郎の撮影してた時にテヒョナがオススメしてくれた店」
ソジュニヒョンが連れて来てくれたお店は、花郎の撮影をしていた時に俺がソジュニヒョンにオススメしたお店だった。ソジュニヒョンはそれを憶えていてくれて、今日俺を連れて来てくれたのだった。
「テヒョナのオススメのお店が、俺のオススメの店だよ」
「・・・・・」
これほど嬉しいことがあるだろうか。俺は嬉し過ぎて、思わず顔がニヤけそうになるのを必死に堪えた。
「じゃあ、中入ろうか」
「はい!」
俺達は車を降りると、一緒に店の中へと入った。
「ん~」
店の中に入ると俺達は店員に案内された席に着き、テーブルに置かれたメニューを見ていた。お互いに何が良いか選んでいるとソジュニヒョンは顔を上げ、笑顔で問い掛けてきた。
俺はメニューを一通り眺めてから自分が食べたいものを相手に伝え、そのままメニューを閉じた。
「そういえば、初めて俺を連れてきてくれた時も、これ頼んでたな」
「あ・・・」
ヒョンに言われて、俺はハッとした。
確かに俺が最初にヒョンをこのお店に連れてきた時も、この料理を頼んでいた。そのこともヒョンは憶えていてくれたのだ。自分でさえ忘れていたのに・・・
「あの・・・ソジュニヒョン」
「ん?」
言いたい・・・俺の本当の気持ち。今この場で伝えたい。
だけど俺の気持ちを言ったら、もうこうして一緒にご飯を食べに来たり出来なくなってしまうかもしれない・・・でも・・・
「どうかした?」
「・・・・・」
不思議そうにこちらを見詰めるソジュニヒョンに問い掛けられ、俺は暫くヒョンを見詰め返したままでいたが、軈て首を振りながら「やっぱり何でもないです」と小さく笑いながら答えた。
するとヒョンは益々不思議そうに首を傾げたが、「そっか」と微笑み丁度隣の通路を通り掛かった店員を引き留め、二人分の料理を注文した。
店員はオーダーを聞くとそのまま「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げ、戻って行った。
「最近どうだ?」
「え?」
「楽しくやってる?」
「あ、はい。とても楽しいです」
ヒョンの問い掛けに俺は再度そう答え、笑顔を見せた。ヒョンと毎日会えたら、もっと楽しいです、とは言わないでおいた。それを言ったら、きっとヒョンは困った顔をするだろうと思ったから。
「それなら良かった。テヒョナ、一時期落ち込んでた時あっただろ?それで心配だったんだ」
ソジュニヒョン・・・ほんとに優しい人。ヒョンのそういうところが、俺は大好きなんだ。優しくて、人想いで、自分のことよりも他人を気遣うところ。
だけど、それゆえに心配になることもある。もっと自分のことも優先して良いのにって・・・
「ソジュニヒョンの方は、どうですか?また新しくドラマの撮影が始まったんですよね?」
「ああ。順調といえば順調だよ。だけど、」
「?」
ソジュニヒョンはそこまで言いかけて、ほんの少し寂しそうな表情をした、気がした。何かあったのだろうか?
「何か悩んでることとかあるんですか?」
俺がそう聞くと、ヒョンは一瞬何か言いたげな目で俺を見たが、すぐに首を横に振った。
「いや・・・何でもない。気にしないで」
「・・・・・?」
ソジュニヒョン、何かあったのかな?俺にも話せないこと・・・?
俺は正直ヒョンの悩みが気になったけど、無理矢理聞き出すのも違うと思ってそれ以上は聞かないでおいた。本当は話してほしいけど・・・ヒョンが今まで俺の力になってくれていたように、俺もヒョンの力になりたいから・・・
「あ、きたきた」
暫くの間他愛のない話をしていると、漸く頼んだ料理が運ばれてきて、テーブルに置かれた。
「お腹空いたな」
「はい」
ソジュンさんとの会話が楽し過ぎてすっかり忘れてしまっていたけど、運ばれてきた料理を目の前にしたら途端にぐう~と腹の虫が鳴った。
何度見ても美味しそうな料理で、俺は箸を手に持つと「いただきます」をしてから一口食べた。
「ん。美味し~。ふふ」
「ふふ、良かった」
俺がモグモグとしながら幸せに浸っていると、ソジュニヒョンは小さく微笑みながら言った。
ああ。やっぱりヒョンの笑った顔が好きだ。
俺が知らないだけで、毎日きっと辛い事も沢山あると思う。だけど、俺といる時だけでも笑っていて欲しい。それが俺の願いだから。
「ソジュニヒョンも美味しいですか?」
「ああ。凄く美味しいよ。やっぱりテヒョナのオススメしてくれた店なだけあって」
「喜んでもらえて嬉しいです」
俺達はそんな事を会話をしながら、食事を楽しんだ。ヒョンとの何気ない時間が幸せで堪らなくて、俺は終始笑顔でいた。
軈て食事を終え、会計を済まして店の外に出た。
外に出ると夏特融の生温い空気が身体に触れ、俺は思わず「暑・・・」と漏らしてしまった。するとソジュニヒョンはニコリと笑って「早く車に戻ろうか」と言った。
俺は「はい」と頷き、ヒョンと二人で車へと戻ろうとした・・時だった。
「テヒョニヒョン」
背後から聞き慣れた声が聞こえてきて、俺は後ろを振り向いた。するとそこには険しい顔をしたジョングガが立っていて、俺達を睨み付けていた。
「グガ」
俺がそのままグガの方へと身体を向けると、グガは真っ直ぐ俺の元へと歩いて来て。そして、俺の両肩をガシ!っと力強く掴み怒りに満ちた声で言った。
「テヒョニヒョンの大事な用事って、ソジュニヒョンと一緒に食事することだったんですか!?」
「じょ、ジョングガッ?」
俺は一瞬戸惑ったが、すぐに自分がしたことの重大さを知り弁解しようとした。・・・が、グガは構わず怒鳴り続けた。
「俺の食事の誘いは断ったくせに、他の人とは行くんですね!」
「痛・・・痛いよ、グガッ・・・」
ジョングガは怒りで興奮状態になっているのか、肩を掴む力が次第に強くなっていった。俺はあまりの痛さに顔を歪めるも、グガの力は一向に緩まない。
「ちょっと待って!」
すると、その時。俺が痛さにひたすら耐えていると、隣でそれを見ていたソジュニヒョンが俺の肩を掴んでいるジョングガの手を放して止めてくれた。
「ジョングク!」
「・・・・・っ」
ソジュニヒョンは俺を庇うように目の前に立ち、ジョングガからガードしてくれ、俺はソジュニヒョンの背中越しにジョングガを見詰めた。そんな俺とソジュニヒョンを見てグガはゆっくりと俯くと、小さく身体を震わせた。
そして暫くしてから、グガは震える声でこう言った。
「・・・なんで・・なんですか・・・」
「え?」
「何で俺じゃだめなんだよ!!」
「グガっ!」
グガはそう叫ぶとクルリと身体を後ろへ向け、そのまま走って行ってしまった。
グガは泣いていた。目にいっぱい涙を溜めて。俺はそんなグガを見て、ズキンと胸が痛くなった。
自分は何てことをしてしまったんだろうって。ジョングガの誘いを断る時に、ちゃんと正直にソジュニヒョンと食事に行くことを伝えれば良かったんだ。
俺の所為だ。俺の所為で・・・
「あの・・・ソジュニヒョン」
「ん?」
「俺、やっぱり帰ります・・グガのことが心配だし。だから・・・ごめんなさい、」
俺がそう言ってソジュニヒョンの隣を通りすぎようとした時。
「テヒョナっ」
突然名前を呼ばれたと思ったら後ろから腕を掴まれ、かと思ったら相手の方へと身体を引き寄せられ、そのまま後ろから抱きしめられた。
「そ・・ソジュニヒョンっ?」
俺が戸惑いながら後ろを振り向こうとすると、ソジュニヒョンはぎゅっと抱きしめる腕の力を強めた。
「行くな」
「え?」
「行かないでくれ・・・」
「ソジュニヒョン・・」
ソジュニヒョンは何だか切なそうな声でそう言って、俺の肩に顔を埋めた。
ソジュニヒョン・・・急にどうしたんだろう?やっぱり何か悩みがあるのかな?
俺はそう思いゆっくりとソジュニヒョンの方へと身体を向けると、顔を覗き込んだ。
「ソジュニヒョン。どうしたんですか?もしかして、さっきのジョングガのことですか・・・?」
俺は、真っ直ぐに相手を見詰めながら問い掛けた。
「・・・・・」
しかしソジュニヒョンは何も答えず、ただ俺を見詰め返しているだけだった。ヒョン・・・何だか苦しそう。俺に出来ることなら力になりたい。
俺は再びそう思って、口を開こうとした・・・その時だった。
「・・・・・!」
一瞬、何が起きたのか分らなかった。
え・・・?俺、今・・・ソジュニヒョンに、キス・・・されてる?
「んん・・・っ」
それが分かった途端とてつもなく恥ずかしくなり、俺はヒョンの腕の中から逃れようと身体を捩った。
「ヒョ・・ン・・やめっ・・」
しかしソジュニヒョンの腕の力は緩まることがなく、俺の身体をしっかりとホールドしている。何とかしないと・・・
「やめて・・ヒョン・・やめてください!!!」
俺は渾身の力で漸くソジュニヒョンの腕から逃れると、そのまま俯いた。頭が混乱していて何も考えられない。どうしたら良いのか分からない・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
暫くの沈黙が、俺達を支配した。お互いにどう言葉を発すれば良いのか分らず、ただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
しかし、その沈黙を破ったのは・・・ソジュニヒョンだった。
「テヒョナ・・ごめん、急にこんなことして・・・だけど、どうしてもお前をジョングクの元に行かせたくなくて」
「・・・・・」
「テヒョナ」
「・・・・・」
「俺はお前が好きだ」
「え?」
耳を疑った。夢なのかと思った。まさかソジュニヒョンも、俺のことを好いてくれてるなんて思わなかったから。これは現実・・・?それとも・・・
「今すぐに返事をくれなくても良い。ゆっくりと考えて、返事をしてほしい」
「・・・・・」
ソジュニヒョンはそれだけ言うと俺を車に乗るよう促してから、自分も車に乗り込んだ。
車中にいる間、お互い黙ったままだった。俺は終始俯いたままで、今どこをどう走っているのかも分らなかった。
数十分くらい経った頃だろうか。漸く車は止まり、顔を上げると俺の住む宿舎の前だった。
「着いたよ」
ソジュニヒョンは柔らかい声音で俺に声を掛けると、車から降りるよう促した。
「今日は久しぶりにテヒョナに会えて、楽しかったよ。有り難う。また今度ゆっくりと・・・」
「はい」
俺はソジュニヒョンの言葉に小さく頷くと、ゆっくりと車から降りた。
「俺の方こそ、今日は有り難うございました。おやすみなさい、」
「ああ・・おやすみ」
ヒョンがそう答えたのを確認すると俺は車のドアを閉め、軽くヒョンに頭を下げた。するとヒョンもそれに応えるように頭を下げ、そのまま車を走らせ帰って行った。
「・・・・・」
ヒョンにキスをされた感触が、まだ唇に残ってる。俺、ヒョンに抱きしめられて、キスされて、ほんとは嬉しい筈なのに・・・どうして拒絶なんてしちゃったんだろう・・・
ヒョンはゆっくり考えて返事をしてほしいって言ってくれたけど・・・俺、ヒョンを傷付けちゃったかな・・?
考えれば考えるほど頭の中がグルグルしてきて、俺は今日はもう考えるのを辞めた。
「・・・今日はもう、部屋に戻ってゆっくりと寝よう」
俺はそう思い、そのまま宿舎の中へと帰って行った。
つづく
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