ジョニー阿部氏の問いに、僕は最初、答えられなかった。「誰に紹介しているのか?」そんな当たり前のこと、なぜ聞くのか?
「誰って・・・ジョニー阿部さんに・・」
少し戸惑いながら、僕がそう答えると、ジョニー阿部氏の鋭い視線がこちらに刺さる。
「私に?ですか?では、あなたは紹介中、私のことを考えていましたか?私の表情を確認しましたか?」
そう言われて、僕はハッとした。確かに、商品紹介中、僕は夢中になってずっと喋り続けた。その時、ジョニー阿部氏がどのような感じで、こちらの話を聞いているのかなんて考えてもいなかった。
「私がつまらなそうに聞いていたのを気づきませんでしたか?」
そう言われ、僕の顔は紅潮する。恥ずかしさと悔しさの入り混じった感情が交差する。
「あなたはおそらく、今まで同じような紹介を行ってきたのでしょう。確かに、あなたの商品知識や熱意には目を見張るものがあります。その熱意を気に入って商品を購入する人もいるでしょう。しかし、あなたの説明は独りよがりです。自分の知識をただ一生懸命に披露しているに過ぎません」
確かに、僕はいつも同じような商品紹介を繰り返してきた。とにかく一生懸命に商品を紹介する。全力ダッシュを繰り返すように、紹介を行ったあとは、大きな疲労と共に、達成感もある。
しかし、その疲労と達成感に比例して結果はついてこない。そこが悩ましい部分であるのだが、確かにそうだ。僕は誰に商品を紹介していたのか。確かに、顧客に向けて商品を紹介していたつもりだが、その顧客のことを考えて商品を紹介していたのか、と言われれば考えていなかったような気がする。
僕の思考を察知したかのように、ジョニー阿部氏が口を開く。
「人と話をするとき、そして何かを紹介する時に、まず重要なのが、その人の反応をみることです。その人が今、この話に対して興味を持っているか?つまらなそうにしていないか?紹介や会話の途中でも、相手の仕草や表情を読み取り、現在の状況を探る必要があります。人間にとって一番の苦痛は、つまらない話を聞くことです。そして、つまらない話を聞き続けた人が、商品を購入することはありえません」
「つまり、僕の商品紹介は・・・」
「はい。つまらない話です」
ジョニー阿部氏は、一刀両断に僕を切って捨てた。
続く