店の魅力は、必ずしも広さや新しさで決まるものではない。むしろ空間の質は、そこに立つ人の心のあり方によって静かに形づくられていく。
建築的に興味深いのは、どの店にも店主のおもてなしの気持ちが滲み出ており、それがそのまま雰囲気となって空間を支配していることだ。設計図には描けない要素が、確かに存在する。
近所の中華料理店「しん嘉」では、奥様がいつも自然に声をかけてくれる。その柔らかな言葉が場の緊張をほどき、店を街の延長のような親密な場所へと変えている。
「紅蓉軒」の大将は無類のビートルズ好きだ。LPを飾る部屋を設え、アビイ・ロードの看板まで掲げてしまった。その揺るぎない“好き”が空間に芯を与え、店に個性と奥行きをもたらしている。料理を待つ時間さえ、ビートルズ談義によって豊かな余白へと変わる。
「コーヒーマン」では、焙煎と抽出への徹底したこだわりが、一杯の重みとなって伝わってくる。店主の真剣な所作が空気を整え、その静けさの中で心もまた整っていく。ここには、癒しが意図せず生まれている。
空間とは壁や天井ではなく、人の気配によって完成するものなのだろう。
だから私は、店主と話せる店に惹かれる。そこには過剰な演出のない、確かな安心がある。