「あ、神様が居る。おーい、今日は、ラーメン多めに用意しとけ。忙しくなるから。」

 

古代、漢王朝の高祖劉邦が、その手合いだったと聞くが、自分は聞き流す。

 

「あー、王子様が歩いてる。あいつ、親父が医者らしいぜ。」

 

それ自体は、事実なのだが、自分自身が医者という訳でもないので、聞き流す。

 

「なんか、あれ、天才って聞くけど、ホンマなんかな? 普通のおっさんに見えるが?」

 

特技は、トランプ占いぐらいだが、他に、取り柄らしい取り柄も無いし、聞き流す。

 

「あの人、評価が真っ二つなんだよね。好く人は、メシアのように言うし、嫌う人は詐欺師のように言うし。」

 

自分は、メシアではない、ただの人間だ。そこを偽るつもりはない。ただ、騙した覚えも無い。

 

 

昔、私を、メシアのように言った、女の子が居た。

 

私は、それは違うんだよ、そう諭した。

 

メシアは、天から、誰の目にも明白なような形でやって来るらしい。

 

再臨は、まだ起きていない、そして、神は、まだ人類に猶予を与えている。

 

 

ある日突然、メシアとして覚醒するというのは、これは神学的には間違いらしい。

 

メシアは、生まれ落ちた瞬間から、メシアの自覚を持ち、メシアとして生き、メシアとして死ぬからだ。

 

それは、ちょうど、将棋の駒の王将が、最初から王将であるのと同じ。

 

王将は、王将として最初から君臨し、他の駒に取って変わり得ない。

 

私は、じゃあ、何者だろうと、ふと思う。

 

皆が、そうだと言う通り、どうも、私も、王将の手合いのような気もする。

 

ただ、私は、人を駒のように扱う事を好まない。

 

人間には個性がある。心がある。人格がある。

 

私は、絶対服従してくれるロボットは求めていない。

 

だから、自分の心を押し殺して、自分の為に働くように言う教えとは、そぐわない。

 

 

実は、世界中に存在する、将棋類の中には、王将と歩兵しか無いような、原始的なものもある。

 

あるいは、駒と駒を飛び越していき、目的の場所に到達したら勝ちというゲームもある。

 

そういったゲームでは、司令官と従卒といったような、シンプルな世界構造を有する。

 

対し、将棋やチェスといったゲームでは、一つとして、同じ機能の駒が無い。

 

このため、駒と駒を連携させて戦うのが基本であって、単独の駒で勝てるケースは、まず無い。

 

にも関わらず、現実には、コストダウンを目的にしているのだろうが、単騎で戦わせるケースが多い。

 

私は、思う。それが叶うのは、誰にでもできる仕事に限られる、と。

 

 

また、兵種によって、向き不向きがあるのは、当然の事。

 

香車は、下段に打つ事が推奨される。そして、突貫させるのではなく、その先に別の駒を噛ませて、支援するのが良いとされる。

 

桂馬は、中段に据えて、攻めの起点とし、次から次へと、歩兵を成らせて、進軍を助けるのが良いとされる。

 

銀将は、積極的に上段に登らせていき、香車や桂馬の支援を受けながら、歩兵の動きと合わせつつ攻めるのが良いとされる。

 

金将は、王将の傍に控えて置き、囲いの構成員として使うのが良いが、勝負の決め手にもなりうる為、温存が良いとされる。

 

飛車・角行は、終盤で有用な為、通常、自陣から動かさない方が良い。龍や馬は、王将より強い。

 

歩兵は、最低にして、最上の駒とされる。歩の無い将棋は、負け将棋とすら。

 

 

現代日本の誤りを言うなら、これではないかとも思う。

 

早い話をしよう。歩兵しか養成していないのだ。

 

王将の資質の人間もレアだとは思うが、それ以前に、完全な雑兵にしかならない人間も、そう多くは無いだろう。

 

RPGの世界の方が、よっぽど人格的な教育をしている。

 

剣を使う者も居り、魔法を使う者も居り、弓を使う者も居る。

 

また、その中でも、地水火風の区別ぐらいはされ、その組み合わせで戦っていく。

 

 

実は、私は、昔、モンスターハンターというゲームをやったことがある。

 

その時、二系統の人間が居る事に気付いた。

 

「自分の事しか考えない猪侍」か「他人を支援したり、回復アイテムを余分に持っていく知恵の回る、司令官」かだ。

 

その点で言うと、私は、あからさまに後者にあたる。

 

使っていた武器は、ライトボウガンで、必ず、「回復弾」を持っていったからだ。

 

味方に命中すると、体力が回復するという手合いの弾丸。

 

その他、「睡眠弾」や「毒弾」や「麻痺弾」などを持っていく事が多かった。

 

他のプレイヤーが、一斉に敵を攻撃している間に、自分は、全体を見ながら、特殊弾を打ち込むのが多かった。

 

しかし、あのゲームは、実は、前線で戦う武器の人間でも、他人に、自分が持っているアイテムを手渡す事ができる。

 

回復アイテムなどを手渡す事も可能で、これをやる知恵が回ったのは、当時の農園の社長。

 

アクション性の高いゲーム自体は下手でも、メンバーに居れば、必ず役に立つ手合いの人間。

 

それが司令官や、王将たるべき人間だ。

 

ちなみに、「自分の事しか考えない猪侍プレイヤー」の技術者は、自分で独立して、ライバル企業の農業法人を立ち上げたらしい。

 

うまく行ってるかどうかは知らないが。

 

 

私は思う。

 

私如きが、メシアと勘違いされるぐらいなら、あなたも、幾らでもメシア扱いされる事が可能だ。

 

そんなに難しい話ではない。

 

人様が困った時に備えて、何かしようと考える発想があるかどうかだ。