昨年あのクリストファー・ノーラン監督が、原爆の父オッペンハイマーを描いたものである。ピューリツァー賞受賞のノンフィクションを基にしたものらしい。しかしその原爆に関することや騒動により日本公開が長らく見送られていたものである。見ることができたのは本当に良かったと思う。

 先日のアカデミー賞において、作品賞, 監督賞, キリアン・マーフィの主演男優賞, ロバート・ダウニー・Jrの助演男優賞, 編集賞, 撮影賞, 作曲賞を受賞し、興行的にも成功した作品である。出演者は他にマット・デイモン, ケネス・ブラナー, ラミ・マレックなど有名どころが多数出演していた。音楽は「TENET」の人で、あれと同様なかなかの音楽であり、受賞も納得である。

 映画は3時間だった。登場人物が非常に多く、また時系列も異なるものが描かれる。多少混乱するし理解しきれない部分もあったと思うが、それでも分かりやすく描かれていたのだろうと思う。かなり興味を持って観られ、あっという間の3時間だったと思う。
 原爆については、やはり落とされた日本人としてはもやもやが尽きないものであった。

 

 おおよそ2時間15分ほどの所で、原爆実験に成功する。もの凄い映像であり構成である。間違いなく映画の名シーンであろう。そして、そこに至るシークエンスは、数あるサクセスストーリーの如く期待を煽る構成となっていて、いつの間にか実験成功を期待する自分がそこにいたのである。これに気づき非常に恐ろしくなった。彼ら科学者と同様の気分を味わうように仕向けられたと後になって思った。このような映画を作ったノーラン監督もまた極めて恐ろしい人物だと再認識した次第である。
 今でも大半のアメリカ人は原爆投下を正当化していると聞く。実験に成功した研究者らは喜び感動の涙も流す。オレの心の中では悲しさとショックで号泣してしまった感じである。
 以降、国民は大熱狂し、オッペンハイマーは一躍英雄視されるのであるが、逆に水爆反対にかじを切るのである。その後のシーンはオレのほとんど知らないものであり、非常に興味深かった。
 アインシュタインやボーアなど、実際の有名科学者も出てきて、それほど遠い過去の偉人でもないことにも驚かされた。
 若干、広島・長崎への原爆被害についても少しは話が及んだのだが、本当にごくごくわずかであった。その時彼らが全く知らなかったことでしょうがないのかもしれない。だとすれば、別目線でこの原爆投下についての映画が作られることにも期待したいのである。
 

 とにかくものすごい映画であった。