先日、長谷川晶一著「名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点」という本を読み終えた。昨年3月発売の本である。
 

 野村克也は、90年にヤクルトの監督に就任し、2年目に11年ぶりのAクラス, 3年目に優勝, さらに2連覇と日本一などへ導いた。その後阪神の監督になり3年連続最下位となるも引き続き監督をすることになっていたが、沙知代夫人逮捕により辞任する。それから社会人野球のシダックスの監督として復活し、それから楽天の監督にも就任した。実はそのヤクルト監督となる前、中学生のチーム「港東ムース」の監督をしていたのだ。その時のチームの中心人物の1人田中洋平氏を軸に、まさに名将前夜とも言うべき時代の野村克也を描いたノンフィクションである。
 

 当然オレの全く知らなかった時代のことである。あの「ノムさんのクール解説」を幼少時に見ていて、その鋭い解説者がヤクルトの監督になると知り、巨人ファンのオレが少しびびったことのみ覚えているが…。
 まだ幼い者に対し単なる軍隊式のような教え方をしないように, そして大人に教えるよりも注意深く指導することを心がけていたこともまた初めて知った。
 そのイズムはその後息子の団野村監督以降にも引き継がれ、港東ムースは4連覇の大偉業を成し遂げたのだった。同時にヤクルトでも実績を挙げながらも、港東ムースには常に気をかけていたようである。
 本書には、田中氏以外にも多数の教え子たちが登場し、当時を振り返る。皆一様に野村監督に教えられた言葉の大切さを語るのが印象に残った。練習時も試合を想定して考えながらやる。練習のための練習ではいけないなどという言葉も強く記憶に残った。何事ものほほんとしていては上達も成長もないのである。とにかく多くの名言が登場したと思う。
 指導者が良くても必ずしも成長できない。学ぶ側に心がなければうまくいかないと思う。紹介されている人たちは皆その資格が十分あったのだろうと思う。自分もかくありたいと今更ながら思った次第である。
 あの井端にショート転向を勧めたことや、GG佐藤に言葉をかけた場面, 田中氏の苦労に自分を重ね、人目をはばからず大号泣したシーンなど、野村克也の数々のエピソードにぐっと来た。本当に偉大な人だったのだと感じた。そして亡くなってしまったことが非常に残念だと以前以上に思った。
 沙知代夫人にも色々あった。野村監督は2度(南海及び阪神)も監督を辞任させられ、沙知代オーナーの港東ムースも消滅してしまった。今の時代でなくてもアウトな言動の数々があったようだが、しかし少年たちへの想いや情熱も少しはあり、感謝している人間も多からずいたのは事実だった。とても複雑な思いである。
 とにかくてとても面白い本だった。