それは、今日解剖学の授業で流華が僕に突然言ってきたことだった。
何でもサークルで貰った映画のチケットが10枚近く余ったそうで、一緒に行こうと誘われたのだ。
その時は驚いたけど、今日家に帰るまで僕の気持ちが軽やかだったのはこのせいだったのかも知れない・・・・
「もちろん伊藤君となら楽しめると思ってだよ。みんなかぁ・・・・あたしだけとじゃ嫌かなぁ?」
電話先で流華の声が少し寂しげになった。
とっさに僕は言い返す。
「嫌な訳ないじゃん!ただほら・・・彼氏さんは大丈夫なのかなって・・・・?」
「彼氏って次郎のことかな??うーん、次郎とはね今あんまり関係が良くなくて・・・なんか浮気されてる
っぽいんだよね」
「う、浮気!? それ本当? それはヒドイなぁ・・・」
「うん・・・・」
丹沢次郎は実際イケメンだ。
体は格闘家みたいにゴツくて、色黒。周りにはいつも女の子がいる。
良く食堂で女の子たちとご飯を食べているところを見る。
そんな光景を思い出した僕は、彼氏がそうなら彼女とは言え映画館くらい大丈夫だろ、とたかをくくった。
「じゃあさ、そんなこと忘れて俺と映画館行こうか!いつ行こうかな?」
僕はおもいきってそう言った。
流華の声のトーンが一気に上がるのを感じた。
「本当!?ありがとう!じゃあもう明日行こう♪明日は学校無いんでしょ??」
「明日はないよ!じゃあ明日10時にN駅でどうかな♪大丈夫?」
「うん!やった!じゃあまたあしたね♪バイバイ」
なんだかあまりにも自然に話が進んでしまった。本当に良かったのか・・・でもあのときの僕は、そんな不安よりも楽しみに感じる気持ちが先行していた。
流華と・・・デート?なんだか考えられない・・・
でも嬉しいし、でも不安もあるし、明日は何を着て行こうか、やっぱ僕のおごりなのかな?
そんなことを考えているとふと睡魔に襲われて、僕はベッドに突っ伏した。
「ジャジャジャン、ジャジャジャン、ジャジャジャジャジャジャジャジャジャン・・・!!」
ゴジラのテーマ曲で僕の目覚ましが部屋中に鳴り響く。僕はゴジラの大ファンだ。
「う、あー。まだ7時か。」
でも今日はすぐに目が覚めた!
「よっしゃーー!シャワーだ!!」
僕の一日は朝のシャワーから始まる。今日は体中を入念に洗った。
風呂から出ると、歯を磨く。今日はデートだから・・・とチューブごと口に突っ込んで中身を搾り出す!
口をすすいだら髪をクシでとかしながらドライヤーで乾かして、お気に入りの服を選ぶ。
「今日はデートだからなぁ、高島屋で4万で買ったこのジャケットにビンテージのデニムにしよう!
インナーはユニクロじゃ!」
体が軽くて、どんどんコーディネートが決まってゆく。本当にワクワクしていた。
そこへ流華からの電話が入る。
「伊藤君!?どうしようあたしもうN駅着いちゃった!(笑)」
「えーー!まだ9時回ってないぜ??じゃ俺も急いで行くよ!」
なんだ、流華の方が楽しみにしてるじゃないか!そんな風に考えながら、僕は昨日の帰り道よりも早いスピードで駅に向けて自転車をこいだ。
その時だった。
バン!!!
僕は一瞬何が起きたのか分からなかった。
気づいたら僕は道路の真ん中に仰向けになり、横ではボロボロになった僕の自転車の後輪だけが寂しくカラカラと回っていた。
どうやらあまりに急いでいた僕は、片手に掴んでいた傘を自転車の前輪に絡めてしまい、自転車ごと前方
10メートルくらいに吹っ飛んだのだ・・・・
自分でも何が起きているか分からない時に流華の声が響いてくる。
「・・・君!?・・・藤君!!・・・・伊藤君!!伊藤君!!」
「流華・・・??」
目の前に流華の顔が移る。