sub 寛加です


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こんな時間にメールごめんなさい。

この間の歌っている伊藤先輩、とても素敵でした。そのときの伊藤先輩の姿が目に焼きついて

今でも離れません。

 私、実は高校生の頃歌手を目指していたんです。でも・・・挫折しちゃって。

メールで書くことじゃ無いかもだけど、一緒に歌、始めませんか?

返事待っています。



まさか寛加がこんなことを考えていたなんて、知りもしなかった




僕は一人で音楽活動を始めようとする中での不安もあったのかも知れない





すごく嬉しい気持ちになった




ぼくは寛加にすぐ電話した




「もしもし?寛加ちゃん?」





「はい・・・・・メール読みました?」





「うん・・・読んだよ。君がいいなら、一緒にやってほしい」





「本当ですか!?お願いします!」




「うん!明日から練習だ!」



僕は凄く嬉しい気持ちで心が満たされた




次の日から、近くの球場に足を運び、夜明けまでギターをひきながら練習する日々・・





「いくーつもぉのー日々を越えて~♪たどぉりついたぁ!・・んん!」




「くそ!ここが高くていつも出ねぇよ!」




「大丈夫ですよ先輩!練習続けましょ☆」




そう言って寛加はギターを片手に優しく微笑んでくれた




僕らは球場の周りをジョギングしたり、ストレッチしたりして体力の向上をはかった




おかげで1ヵ月後には、大手レコード会社の地方オーディションで1次予選を突破する程の

実力をつけることができた





「いよいよ明日は二次予選だね!先輩!」




「ああ!頑張ろうな!今日は俺んちで徹夜だぜ!」




僕のうちに寛加が入るのは初めてのことだ




「そのへん適当に座ってて!クッションあるし、使ってな!そうだ晩飯は弁当にしよう。電話かけてくるわ!」





「ありがとうございます!」



プルルルル、プルルル


「ちわーっす!かまどやでーす」



「あ、もしもし。お弁当の配達をお願いしたいんですが大丈夫ですか?・・・名前は伊藤と言います。カラアゲ

弁当を二つお願いします」



「あ!?伊藤さんっすかぁ?俺っすよジモンっす!」



「ジモン!?お前か!?ここでバイトしてたのかぁ・・・」



「そうっすよぉ!!天下の伊藤さんなんで、今回は俺のおごりっす」




「まじか!?すまんなぁ・・・」




「いいんすよぉ!ところで伊藤さん歌始めたって本当っすかぁ?」




「おう、まぁぼちぼちなぁ」




「いや実はね、僕の知り合いに伊藤さんの歌声聞いた奴がいて、伊藤さんと会いたがってるんすよお!」




この電話で、僕らの運命は大きな転換期を迎えることとなった。

曲はもちろん…清水翔太の「アイシテル」。

この曲は流華との思い出の曲でもあり、流華曰く声が清水翔太と似ているとの事である。

僕は精一杯歌った。


流華の事だけを考えながら…。


歌い終えると周りが静まり返っている。


「え!?」


僕は思わず周りを見渡した。


するとあの次郎が泣いている。


次郎以外にも数人が涙を流していた。


「伊藤!!お前東京行って歌手になってこい!!」


次郎がマイクを使って僕に叫んだ。


「まじでやばかったっす>_<」


「最高でした♪♪」


周りから歓声と共に拍手が沸き起こる。


「あ、ありがとうございます。」


何がなんだか分からなくなった僕は、タバコを吸いに1人外に出た。


実は次郎の言葉にあった「東京」が、僕の心を動かしていた。


今まで視能訓練士になる事しか考えていなかった僕への歌手という職業の道。


偶然今日カラオケに参加した。


偶然次郎と同じ部屋になった。


そして偶然にも流華は東京にいる。


その全ての偶然がなければこんな気持ちにはならなかった。


まさに「奇跡」である。


僕は歌手への道を歩む事を決意した。


親には…もちろん内緒で。


とりあえず学校を辞め、毎日アルバイトをしながらあいている時間に歌の練習をする事にした。


いきなり上京してもダメだと思ったので、お金が貯まるまではここにいるつもりだ。


「まずはアルバイト探さないとな~。」


僕は前とっておいた仕事情報紙を開いた。


そこでいくつかの候補が出たが結局ホテルのフロントが高時給かつ楽そうだと思い早速電話をかけてみた。


電話の相手はとても優しそうな方で明日に面接をする事となった。


とりあえずアルバイトの件はなんとかなりそうだ。


次はキーボードを買いに行く事にした。


実はピアノがかなり得意で、以前コンクールで最優秀をいただいた事もある。


自転車に乗り、大型楽器店へと向かう。


結局3万円台のキーボードを買う事にした。

さすがに自転車で持って帰る事はできなかったので、郵送してもらう事となった。


家に着きとりあえず今日できる事はやれたかなぁ~と安心していると携帯電話が鳴った。

寛加からのメールだ。

実はカラオケの後番号交換をする事になったのだ。


そこには僕の人生をまたしても大きく変えてしまうような文章が。

「いやぁっほーーい!!これでストライク3本めだぜぇ!」




ジモンが叫ぶ



僕らの大学は、二次会と言えばボーリングだ



「次伊藤君の番だよ♪」



そう言って寛加が16ポンドのボーリング玉を両手で抱えて持ってくる




「ちょちょ!こんな重たいの俺無理だよ!」




僕はすかさずそうツッコンだが、寛加は大丈夫だよって顔をしてこっちを見る




「まじか~分かったよ・・・」




僕がそう言ってボールを受け取り、投げようとした瞬間・・





「おい!」





次郎だ




次郎は僕からボールを取り上げると、16ポンドのボールを上投げしてピンに向かって投げつけた





「ガシャーーーン!!」




すさまじい音を立ててピン全てを弾き飛ばし、ストライクを出した




「うおーーー!次郎さん凄いっすねぇ!」




周りから歓声が沸き上がる



僕は全く気づいていなかったが、次郎は二次会から参加していたのだ




「・・・・」



次郎は僕を睨みつけて、席に戻った




「なんだか怖いですねあの人・・・」




寛加が耳元で僕に囁く



「そう?俺は良くわかんないけどさ・・」





「でもちょっとカッコいいですよね」




「・・・そうかなぁ?まぁそうなのかも、ね」





なんとなくごまかして、僕は一人タバコを吸いに外に出た





流華、今頃飲みしてんのかなぁ・・・そんなことを考えながら一人でタバコを吸っていると時間が




あっという間に過ぎてしまった







「伊藤さーん!!何やってんすかぁ!次カラオケすよ!待ってますんでぇ!」



ジモンだ



「お、おう!」


ボーリングの次にカラオケ。これもまた定番の流れだ




「あら!伊藤君久しぶり~元気してた?最近来ないから心配してたのよぉ?」




バーのママのようなノリのこの女性は、カラオケの店長だ。



恥ずかしい話僕はたまに一人でカラオケに来る。歌い終わってから、良くこの店長と世間話をするんだ




「どうぞ皆さんゆっくり楽しんでねぇ」




「はーーい!!!!」



ジモンがつま先立ちして大きく手を伸ばし、返事をする



まったくコイツはなんでいつもこんなテンションでいられるのかと不思議にさえ思う




「はい!じゃあ次は次郎先輩です!マイクどうぞ!」




あいにく僕は次郎と同じ部屋になってしまった。でも隣には寛加がいる。





「僕らはいつも以心伝心~!! 二人の距離繋ぐテレパシ~!!」





「フォーーーーーー!!最高っすねぇ!!」



ジモンと関が手拍子でノリノリになる



しかし、次郎は歌が上手い。



「はい♪次伊藤さんですよ」


寛加がマイクを渡してくれた。



「来ました伊藤さん!!伊藤さんまじ歌うまいんで皆さん大注目して下さい!」



「や、やめろよ!!」



僕は顔を真っ赤にしながらもマイクを握った。