「写真です・・・!壁に写真が貼り付けてあります。」



興奮した弦巻の声が少し遠くなった。
どうやら管のある壁とは反対の壁の方に顔を向けて話してるようだ。



「写真?!何が写ってる?」



監禁されている部屋を脱出するための直接的な手段には

ならなさそうだが、ここに僕らを閉じ込めた犯人の動機を

知る手がかりになるかもしれない。


「うーん・・・中学生・・いや高校生くらいかな。
制服来た男の子と女の子が一緒に写ってます。

ちょっと古い感じがしますね。
もしかしたら俺らと同世代かもしれません。

女の子がポケベルみたいなもの持ってるし・・・。」


ポケベル・・・懐かしい響きだ。
今から10年以上前ちょうど僕が高校生ぐらいのとき流行っていた。


「弦巻、お前その二人に見覚えあるか?」


故意に張られただろうその写真には、必ず何か意味があるはずだ。
僕ら二人のどちらかに関係があるに違いない。


「う~ん・・・二人とも全く知らないですね・・・。
制服も俺が通ってた高校とは違うしな・・・。
そもそも俺って文科系の知り合いってあんまりいないんですよね~。」



「文化系?なんのことだよ、いきなり。」



写真を直接見れない僕は、少しイライラし始めていた。
個人的感想はいいから、何が写ってるのか詳細を具体的に言ってほしい。



「あ、すいません。いやこの子達のいる場所、美術室っぽいんですよ。
美術室によくある石膏の白い胸像が写ってるんです。
それに、二人は一つの絵をはさんでその両脇に立ってるんですよ。
どっちかの子の作品なのかな~・・・とか思って。」




「美術部か・・・・。」




僕は、その言葉を口にしたとたん足の力が抜けて、
管の前に膝をついた。


過去の記憶が蘇ってくる。


ずっと閉じ込めていた消し去りたい忌まわしい記憶が。

僕が生きている限り背負っていかなければならない過去が。




あまりの衝撃に言葉が続かず、その場にうずくまってしまった。


そんな僕の状況を知るはずものない弦巻は、黙ってしまった僕が
写真の詳細をもっとちゃんと伝えろと無言で要求しているように
感じたのだろうか。
必死で写真の説明を続ける。



「中心に写ってる絵は、水彩画っぽいですね。
青緑の背景で、中心に光があってその周りにいくつも蜘蛛の巣が
描かれてて、一番手前に蝶々が一匹いるんですよ。
蜘蛛の巣にひっかからずに、光の場所まで飛んでいこうとしてるみたいな・・・。
う~ん、わかりますかね?こんな説明で。絵を言葉で表現するって難しいですね・・・。」



確かに絵を言葉で説明するのは難しく、どんなに説明が上手くても
言葉だけでは無理があるだろう。



でもそのときの僕は、容易にどんな絵か想像することができた。



写真に写っている絵と全く同じ絵を頭に思い描けた。




なぜなら、その絵を見たことがあるから。



しかもついさっき。




僕は、振り返るのが怖かった。
反対側の壁に、水彩画がかかっているから。



写真と同じ水彩画がかかっているから。



そして、そこに描いてあるサインは・・・・・
見なくてもわかる。



K A O R U  T O Y A M A





弦巻がドアに体当たりする音が止むと、

重い沈黙が部屋を支配した。


どんよりと重い空気に押しつぶされてしまいそうだ。


「俺たち、どうなるんっすかね?」


弦巻の力ない声が、管を伝って細く響いて来た。


僕は、それに返事をする気力すら奪われていた。



ひとつわかったことがある。

こちらには電気がついているのに、

向こうの部屋には電気が点いていないらしい。


他に相違点はあるのだろうか?


「弦巻、そっちの部屋には何があるんだ?」


「え・・・と、狭い部屋っすね。ドアとダンボールと机があるみたいです。」


それはこちらの部屋と同じだ。


「ダンボールの中は・・・乾パンと水っすね!」


「あぁ、ホントだ。」


弦巻の声に、僕も立ち上がってダンボールを空けてみた。


そこには大量の乾パンと、ペットボトルに入った飲料水。


「どうやら僕たちを餓死させる気はないみたいだな」


「そーっすね!・・・あ、でも・・・」


弦巻の重い呟きに、僕もその事実に気づいてしまった。


そう、大量の食料が置いてあるということは、

僕たちをここに閉じ込めたやつは、

しばらくの間は僕たちを外に出す気がないということだ。


「えーーーーっと、あとはそうっすね、先輩の声が聞こえてくるこの管と、」


動揺を押し隠すかのように、弦巻の早口な声が続く。


「あとは・・・あっ!」


それは意外なものを見つけた、といった感じの驚きの声だった。


僕はそれに続く弦巻の言葉を待った。


「うお?!びっくりした!先輩っすか!」



心底驚いたようで甲高い声だったが、確かに弦巻の声に違いなかった。



「なんだぁ~、よかった~。先輩ん家なんすねぇ~、ここ。
起きたら真っ暗なんで、どこかと思っちゃいましたよ~。」



僕の存在に気付いて安心したのか、いつもの楽天的弦巻に戻っている。



「ってかここなんの部屋ですか?地下室っすか?

ってか先輩ヒドイっすよ~。
いくら俺だからってこんなコンクリートの床に直接寝せるなんて・・・もう・・」



真実を何も知らずに呑気に文句を垂れ始めたヤツに、

何をどう説明しようか混乱して言葉に詰まる。



「先輩どうしたんですか~?部屋入って電気つけてくださいよ。」



アイツは僕がドアの前で話してると思ってるらしい。



「弦巻・・・。」


「はい?」



「ここは僕の家じゃない。」




「へぇ?!」


叫びにも近い声を上げた後、弦巻は沈黙した。



大雑把で無邪気で何事にもそんなに動じることのない男だ。

いつもの彼なら
「なに冗談言ってるんですか~」と笑いながら茶化したりするのだろうが
さすがにこの状況には何か感ずるものがあったらしい。



「弦巻、僕もさっき起きたばかりで状況がイマイチ掴めてないし、
ここがどこなのかもわからないんだけどはっきりわかってることは、

僕は君の隣の部屋に閉じ込められてる。」



僕は一旦話をしだしたら少しずつ気分が落ち着き、
次第に冷静さを取り戻していってるように感じた。



「真っ暗で部屋の状況わかんないんだよな?自分の荷物ないか?
ちょっと探してみてくれ。もしあったら携帯の画面の光で周りを
照らせないか?」



「そうか!携帯!ちょっと待っててください!」


弦巻は、僕の言葉で急に元気を取り戻したようだ。

「クソ!本当になんも見えねぇ!」と悪態をつきながらもその声には
明るさが感じられた。




「あった!ありましたよ!先輩!あっ、ドアが・・・・!!」



ドタバタとドアに駆け寄り、ノブを回す音が聞こえてくる。



ガチャガチャガチャガチャ!!ガチャ・・ガ・・・・





「クソ・・・・!!!!!」




ドンッ  ドンッ




弦巻がドアに体当たりしている。




自分のこの状況からこの結果はなんとなく予想してはいたが、
改めて真実を突きつけられるとその衝撃は思った以上に大きかった。




僕らは二人とも閉じ込められた・・・。