日本経済新聞 2005年11月30日 (武智幸徳)


サンパウロから飛行機で一時間ほど。

パラナ州にあるPSTC(パラナ・サッカー・テクニカルセンター)はトップチームを持たない。

投資を全て12歳から17歳までの120人に次ぎ込むプロ選手養成の「虎の穴である」。

「世界で一番強い下部組織だと思う」とレナト・デビット統括本部長は胸を張る。

確かに実績はすごい。

提携関係にあるアトレチコ・パラナエンセは昨年の全国選手権で2位に躍進したが、主力のダゴベルト、アランバイア、ジャドソン、フェルナンジーニョはPSTCの果実だった。

2002年ワールドカップ(W杯)で優勝したブラジル代表のクレベルソンもPSTCの出身だ。

オーナーは沖縄出身の日系3世マリオ・イラミナ氏。

市内と郊外に計7面のピッチを持ち、ブラジル全土から掘り出してきた子供たちを全寮制で鍛えている。

入寮すれば学費から何から一切無料。入団の競争率は200倍という狭き門だ。

開設は1994年。

当時は赤字続きだったが、ビウタが日本のG大阪に売れて事態は好転した。

現在はアトレチコから年間2千万円、人材派遣会社から一千万円をスポンサー料として受け取り運転資金に充てている。

養成力の秘密はあっけない。

17歳以下のジャイール監督は「一にも二にも良い選手選を集めること」

PSTCには12歳以下から13、14、15,17歳以下の5チームがあり、スタッフ全員が手分けして年間3000人の「原石」を見て回る。

入団テストには2週間をかける。

入団出来ても優秀な“転校生”に追い落とされる可能性があるから安心はできない。

各カテゴリーの上限は25人で、どのカテゴリにも監督がいて、GKコーチやフィジカルコーチ、栄養士の指導も受けられる。

元ブラジル代表のエウベルを育てた人物が、技術コーチとして存在するのも特色の一つだ。

クラブの目的は「プロとして成功するための良い習慣を、ピッチの中でも生活面でも身に付けさせること」とジャイール監督。

120人の中で宝石の中の宝石は5個か6個あればいい方。

もしも、そのカテゴリーに一つも宝石がなかったら、そこには何もなかったのと同じ」と厳しい。

いま、一押しの選手はピンバという少年だ。

14歳ながら飛び級で17歳以下のチームでプレーする。

そのピンバの入団テストに付いてきたのがグレーラ。

酒乱の父に毎日殴られるのが嫌で11歳で路上生活者となった。

環境を哀れんだオーナー裁定で入団がゆるされ、PSTCに来て初めて小学校に通うようになった。

1年生から今は飛び級で4年生の教室にいる。

親元を離れたつらさで入寮したての子供ほど「帰りたい」と夜になって泣く。

そういう仲間をグレーダがなだめる。

「僕は帰らない。帰ると兄や弟の食べ物が減るから。ここに居られることを僕は毎日、マリア様に感謝しているんだ」

クラブにも悩みがある。

いくら良い選手を育ててもその経歴の中にPSTCの名前はない。

“下請け”のつらさ。

ロンドリーナ市からは「トップチームを持てば」と誘われる。

事業拡大と行きたいが、それではアトレチコと張り合って提携関係が解消されたら資金繰りは?

クラブとして岐路に立っている。