ピンク色の研究 | ジョン・ワトソンのブログ

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黒く塗りつぶしてある箇所がいくつかあるが、それは守秘義務上の問題であって、ここには僕がシャーロックとルームシェアすることなった日の夜の出来事を、一部始終を書いてみた。シャーロックに初めて会った時、彼は僕の「生活」を言い当ててきた。僕が足を引きずる姿や、日焼け、そして携帯から、実に多くのことを読みとってしまったのだ。でも、それはいつものこと。彼の前では、自分を押し殺そうとしても無駄らしい。だがシャーロックは、観察眼は鋭いが、驚くほど無知でもある。

例えば今朝も、現首相が誰なのか僕に聞いてきた。先週なんか、地動説に心底驚いているようだった。嘘じゃない。本当に知らなかったみたいだ。地球が太陽の周りを回っているとは思いもよらなかったらしい。彼にしてみれば、そんなことはどうでもよかったのかもしれない。だが、いまだに信じられない。これまで良くも悪くも、彼のような才能の持ち主に会ったことはない。だが、こうして基本的知識が欠落しているシャーロックを、僕は恐ろしく思う。まあ今では、そんな彼にも慣れたが…。とはいうものの、僕はいつになっても彼に驚かされ続けるに違いない。とにかく僕はあの夜、こんな事になるなんて夢にも思わなかった。一体、誰がこんなことを予測できただろう!?

部屋の中を見せてもらった時は、あまりの散らかりようにビックリしてしまった。すると、スコットランド・ヤードの▓▓▓▓▓▓▓▓が、部屋に突然入ってきた。当然のことながら、シャーロックには、彼の訪問の理由が分かっているようだった。今度は▓▓▓▓▓▓▓▓で、遺体が発見されたらしい。シャーロックに誘われるまま、ただ好奇心で一緒に行くことにした。タクシーで現場に向う間、シャーロックは初対面の僕をどう推理したのか、種明かしをしてくれた。僕の発言や動作の一つ一つ、携帯の細かな部分など、何一つ見逃さない彼の推理は、実にお見事。ここで詳細を語りたいのは山々だが、どう考えても僕には役不足だ。シャーロックの頭の中がどうなっているのか詳しく知りたければ、彼のサイト「The Science of Deduction(推理の科学)」を直接覗いて欲しい。

確かにシャーロックは天才的頭脳の持ち主だが、警察が彼に協力を求めに来たのには驚いた。シャーロックは自分のことを、「コンサルタント(諮問)探偵」と呼んでいた。当然のごとく、プライド高いどこかの誰かさんは、勝手に自分に役職を与え名乗っているらしい。

▓▓▓▓▓▓▓▓に到着すると、シャーロックは私を「同僚」だと紹介した。これには、警官も驚いていた。推測するに、僕はシャーロックの同僚第1号なのだろう。死んでいたのは、ピンク色の服を着た女性だった。死因は服毒死。またしてもシャーロックは、現場に到着するなり多くの物から情報を得ていた。ピンク色の服。脚に付いた泥はね。現場に残されていたもの。いや、それよりも重要だったのは、現場から消えていたもの。それに気付いたシャーロックは、興奮を隠せない様子だった。そう、消えたピンク色のスーツケース。

遺体を残し、シャーロックはスーツケースを探しに外に飛び出した。言うまでもなく、僕は置いてきぼりをくらった。現場にいた女性警官曰く、シャーロックは「ハイになる」らしい。おっしゃる通り。現場で死んでいた女性や、他の自殺者に対しても言えることだが、彼らが生きていようが死んでいようが、シャーロックにしてみればどうでもいいことなんだ。フラットに帰ってきたシャーロックが、喉をかき切られて血の海に横たわっているハドソンさんや僕を見つけても、ただの難解パズルとしか思わないだろう。「どれどれ」と、眼の色を変えて推理し始めるに違いない。「密室での犯行となると、2人はどうやってお互いを殺したのだろう」とかね。女性警官は、シャーロックのことを「変人」と呼んでいた。その時は、何て大げさで、捜査のプロとしての域を超えた発言だろうと思った。だが、シャーロックに初めて会った日に書いたメモを読み返してみると、僕の字で「イカれた男」と書いてあった。

ベーカー街に戻るなり、シャーロックにメールを送って欲しいと頼まれた。被害者のスーツケースを探し出したシャーロックは、女性の携帯がスーツケースにもなかったことから、犯人が持ち去ったに違いないと考えたのだ。というわけで、よりによって僕は殺人鬼にメールを送る羽目に…。

シャーロックは消えたスーツケースも、恐らく女性の服と同じピンク色だろうと推理し、実際スーツケースを見つけてきた。まさかスーツケースもピンク色だとは思いもしなかったと言うと、「バカ」呼ばわりされた。本人に悪気はないのだが、思ったことをすぐ口に出してしまう性格のようだ。過去にもっとひどい名前で呼ばれたことはあるが、彼の歯に衣を着せぬ物言いには驚いた。シャーロックは、相手を気遣うだとか、そういう配慮というものに全く関心がないのだ。その時、今までシャーロックに「同僚」がいなかった理由が、少し分かったような気がした。

その後、シャーロックと共に、張り込み現場へ向かった。レストランで食事をしながら、メールした場所に犯人が現れるか見張りを続けると、指定した場所に一台のタクシーが停まった。僕たちは慌てて表に出たが、タクシーは走り去った後だった。だが、そう簡単には諦めないシャーロック。しかも、彼の頭には、ロンドンの裏通りが全てインプットされていた。後になって思ったんだが、シャーロックはロンドン地図を丸暗記しているに違いない。「裏道」を駆使してタクシーに追いついたが、乗っていた客は犯人ではなかった。なぜならその男性は、イギリスに到着したばかりの旅行客だったからだ。いずれにせよ、とんでもない夜だったことに変わりはない。ロンドンの街を駆け回って、怪しいタクシーをひたすら追うだなんて、そんな話、聞いたこともないだろう? でも、そのまさかなんだ。

それにシャーロックは、この追跡劇の最中に、僕が足を引きずるのは「心因性」だと証明してのけた。シャーロックは賢い奴だってことは、もう言ったよね?

フラットに戻ると▓▓▓▓▓▓▓▓と警官が、スーツケースを調べていた。シャーロックのムッとした表情に、正直少し笑えた。どうやら彼は、自分は法律を超越した存在だと思っているらしい。だからあの時ばかりは、▓▓▓▓▓▓▓▓の方が一枚上手だと知って、腹を立てたのだ。そんな彼を▓▓▓▓▓▓▓▓は、「子供」だと言うが、確かにそうだ。シャーロックは、他人にどう思われようと気にも留めず、プライドが高い奴だとも書いたが、そうではないのかもしれない。気にしないのではなく、彼の中には「人は誰しも、気にする」という考えが、無いに違いない。他人にどう思われているのか気になるのは、当たり前のことだ。だがシャーロックは、「子供」のように社会のルールやしがらみに捕われることなく生きている。だから彼には、僕ら凡人を読みとれるという、ずば抜けた才能があるのかもしれない。

周りの人間は皆「バカ」だと思っているだけに、誰かが何か賢いことを成し遂げようものなら、シャーロックはクリスマスの日の子供のように大はしゃぎだ。僕のことではなくて、あの被害者のことだ。彼女は携帯を失くしてなどいなかった。現場に残していったわけでもない。自分の死が近いことに気付いた彼女は、タクシーの中に携帯を置いてきたのだ。最近の携帯には、GPSシステムが搭載されているので、携帯の場所を突き止めることが出来る。つまり、あの女性はGPSを頼りに、僕たちを犯人のもとへと誘導してくれたんだ。

犯人は、ベーカー街にいた。何と、フラットの前に停まっているタクシーの中に! 犯人はタクシーで移動をしているに違いないと思い込んだ僕たちは、ロンドンの街を駆け回り、タクシーの後を追ったが、なんと運転手こそが僕たちが追っていた犯人だったのだ。犯人はタクシーで客を拾い、そして乗り込んできた客が彼の被害者たちだ。当然のことながら、まったくもってどうしようもなくイカれているシャーロックは、犯人と話をしたいがために、タクシーに乗り込んでしまった。繰り返しになるが、「ルール」などお構いなし。別に、犯行の詳細を知りたかったわけではない。これ以上、犠牲者を出さないようにと考えて行動したわけでもないだろう。現に、表に犯人がいたにも関わらず、シャーロックは警官にそのことを教えなかった。シャーロックが確かめたかったのは、犯行の理由。それを問いただすのに、犯人と二人きりになりたかったらしい。シャーロックにしてみれば、それ以外のことは重要ではなかった。そう、自分の身の危険すらね。

運転手がシャーロックを連れ去った先は、専門学校の校舎だった。皮肉にも、そこでお互いの頭の仕組みについて学び合おうってわけだ。僕には、理解しがたい発想だ。正直、分かりたくもない。相手は、精神異常者だ。普通の人間とは生きている世界が違う、危険な人物だというのに。考えただけでもゾッとする。

後になってシャーロックから教えてもらったのだが、運転手は脳動脈瘤と診断され、医師から「死」を宣告されていた。タクシーに客を乗せると、ある場所へ連れ去り、被害者らにある選択を迫る。2錠ある錠剤から1つを選ぶようにと。1錠は無害だが、もう1錠は死を招く。与えられた選択肢はもう1つ。その場で銃の引き金を引いてもらい、死を選ぶ。運悪く犯人のタクシーに乗り込んでしまった被害者たちのことを考えると、怒りがこみ上げてくる。被害者の1人は、まだ未成年だったんだぞ! 被害者らは皆、地獄のような恐怖を味わったに違いない。だが、あのイカれたシャーロックときたら、運転手が犯行に及んだ理由が分かるというのだ。彼はただ被害者とのゲームに勝ち続け、被害者らが生きるか死ぬかの判断を、勝手に下していただけだと。なぜかシャーロックには、そのロジックが理解出来たらしい。

犯人とシャーロックの行き先を突き止めた僕と警察は、すぐさま後を追った。だが、時は既に遅し。僕にはシャーロックが錠剤を口元に運ぶ姿が見えた。犯人に強制されたのではなく、危険なゲームの誘いに乗ってしまっていた。プライドが高く、偉そうな精神異常者に、そうやすやすと「勝利の喜び」を味あわせるわけにはいかなかったのだろう。するとその時、一発の銃弾が運転手の胸を貫いた。彼のような人間には、敵の1人や2人はいたはず。まあ、そう驚くことではないが、人が撃たれるのを目の当りにしたのはアフガニスタン以来。その光景には、今でも決して慣れることはない。人が撃たれる瞬間、人の命はもう1人の人間に委ねられる。運転手を撃ったのが誰にせよ、正直ホッとした。なぜって、あの射撃がシャーロックの命を救ったことは間違いないからだ。正直のところ、何も知らずにタクシーに乗り込んでしまった被害者たちの苦しみを考えると、銃撃死はあまりにもあっけない最期だったかもしれない。

それからどうしたかって? 私と「同居人」は、中華料理店に食事をしに出かけた。前にも言ったことがあるかもしれないが、シャーロックは本当にうまい店を知っている。

最後に1つだけ。運転手は死ぬ直前に、ある名前を口にした。「モリアーティ」という名の人物、もしくは何かの名前だ。聞くところによると、運転手の犯行を援助したスポンサーだとか。「モリアーティ」。僕も、シャーロックも、その名前に聞き覚えはなかった。当然のごとく、シャーロックは夢中になっている。宿敵を見つけたと騒いでいる。彼は、本当に不思議な「子供」だ。

その後はどうだって? 常に何かが起こる毎日だ。伝えたいことが山ほどある。