先月、2月9日にアメリカのジャズピアニスト、チック・コリア(Chick Corea)氏が亡くなりました。毎日、新聞に目を通し、ネットニュースも見ているのですが、この悲報を知ったのはつい最近になってからでした。
自分の音楽の好みを振り返ってみると、チック・コリアの影響は大きかったと思います。特にそのラテンフレーバー。後に自分がラテンミュージックを深掘りしていったのは(とはいっても、大したことないかも知れませんが)、チックの楽曲からといって間違いありません。
4ビートのモダンジャズにのめり込んでいた自分が最初にチックの曲に触れたのは、ビッグバンドが演奏する「ラ・フィエスタ(La Fiesta)」と「スペイン(Spain)」でした。学生のビッグバンドですけれど。1970年代です。そのエキゾチックで哀感のあるメロディーと優れたサッカー選手のステップを思わせるリズムは、一言でカッコいい。
生粋のラテンのピアニストに比べると、都会的で洗練されていて、インテリジェンスが溢れている、クールな一面があります。一方でワイルドさには欠けるのですが。そんなことは個性という面で何の問題でもありません。とにかく独特のラテンピアノです。すぐにチックだと分かる。
後者の「スペイン」は、チックの代表曲となり、カバーも多いのですが、学生ビッグバンドの演奏はアメリカのビッグバンド=ウディ・ハーマン(Woody Herman)ビッグバンドのコピーで、自分にとってチックの曲とのファーストコンタクトとなった演奏です。「キング・コブラ(King Cobra)」というアルバムで、後に聴いたチック自身のオリジナルと異なるのは、前奏です。オリジナルはロドリゴ(Rodrigo)の「アランフェス(Aranjuez)」を使用しているのに対し、ウディ・ハーマンバージョンでは、同じくチックの曲である「クリスタル・サイレンス(Crystal Silence)」を使用しているところです。名演奏と思います。
---Woody Herman : Spain
https://www.youtube.com/watch?v=hmculKhNuK4
カバーから入ってオリジナルへ。チックのリーダーアルバム、大人気でしたね、「リターン・トゥ・フォーエバー(Return to Forever)」、「ライト・アズ・ア・フェザー(Light as a Feather)」、「クリスタル・サイレンス(Crystal Silence)」とアルバムを買い、聴きまくりました。私感でしかないですが、作家の田中康夫氏が書いた小説「なんとなく、クリスタル」は、タイトルだけですけれど、このチックの曲からインスパイアされたのでは、と思っています。話が逸れました。
---Chick Corea : Spain (original)
https://www.youtube.com/watch?v=sEhQTjgoTdU
そこからチックのラテン色がさらに強くなっていくアルバムに、自分の音楽の好みは大きく広がっていきました。決定的なのは「マイ・スパニッシュ・ハート(My Spanish Heart)」と「マッド・ハッター(The Mad Hatter)」。
アルバム「マイ・スパニッシュ・ハート」の中の曲「ナイト・ストリート(Night Streets)」のサルサのピアノ・リフはお気に入りになり、続く「マッド・ハッター」には痺れました。B面2曲目の「ディア・アリス(Dear Alice)」、ジョー・ファレル(Joe Farrel)のフルートソロのバックでのこれもサルサ・ピアノ・リフ、自身のピアノソロとドラム、スティーブ・ガッド(Steve Gadd)とのインタープレイ、凄まじい。次曲「マッド・ハッター・ラプソディ(The Mad Hatter Rhapsody)」もまた然り。
---Chick corea : Night Streets
https://www.youtube.com/watch?v=XpA2ckaAStY
---Chick Corea : Dear Alice
https://www.youtube.com/watch?v=Eb5j2UhgiuA
---Chick Corea : The Mad Hatter Rhapsody
https://www.youtube.com/watch?v=7ovuPGNUmxc
自分の音楽観が広がったのは、特にラテン系音楽を好んで聴くようになったのは、本当にチックのお陰です。人生が楽しくなったと感じます。Thank you, Chick! ご冥福をお祈りします。
最後に余談です。ある時、音楽スタジオへと収録にやって来たジョー・ファレルが仲間たちと休憩スペースにいて、突然お遊びでスペインのフレーズをソプラノサックスで吹き出したのを聴いたことがあります。もちろん本生で。素晴らしかった。鳥肌モノでした。