この7月に行われた「ドリームオンアイス」で、ロシアのスケート選手、メドベージェワが演じたエキシビジョンの選曲にハッとしました。The windmills of your mind、邦題「風のささやき」。1968年のアメリカ映画「華麗なる賭け(原題: The Thomas Crown Affair)」のテーマ曲です。同年のアカデミー主題歌賞を受賞しています。彼女の使用したバージョンはAll Angelsという、女性コーラスグループによるもの。作曲はミシェル・ルグラン、フランスの音楽家です。映画音楽を数多く手がけていて、「シェルブールの雨傘」の”I will wait for you”、「思いでの夏」の”Summer Knows”などは、誰でも一度は聴いたことがあるのではないでしょうか?どれも甘く、切なさ溢れるメロディが青春への想いを心の奥底に沈殿させてくれます。脱線しますが、”I will wait for you”はライザ・ミネリのライブが絶品です。Youtubeで観ることができるので、ぜひ。

 

 映画「華麗なる賭け」の主演は60年代、70年代の大スター、スティーブ・マックイーン。超かっこいい、としか言葉がありません。共演は、こちらも大女優フェイ・ダナウェイ。内容は泥棒の話。まさに往年のアメリカ娯楽映画です。

 

 名曲だけに、様々なアーティストがカバーしています。筆者が好きなのは、ジャズのアルトサックス奏者、フィル・ウッズが作曲者のミシェル・ルグラン率いるオーケストラと共演した1975年のアルバム”Images”の中に収められたバージョンです。

パイプオルガンから始まり、ストリングス、金管、木管をバックに軽やかに吹き上げるウッズ。というと、イージーリスニング的に思われるかもしれませんが、中程ではしっかりとスイングしていて、聴かせます。ウッズのアルトはサラリとした歌い方で、過剰な感情移入が無いのが却って原曲の良さを引き立たせています。

ジャケットもなかなか素敵でした。淡い色調のイラストで女性とユニコーンなどが描かれています。女性が当時のミューズ、シルビア・クリステルになんとなく似ているように思うのは、筆者だけでしょうか。

 

さて、この曲のタイトルにあるWindmillは風車ですから、メドベージェワの華麗なスピンや美しいジャンプにうまくシンクロしていて、彼女だけが持つ情感溢れるスケーティングにうまくフィットしていて、好ましく思えました。。彼女が過去に演技に選んだ曲の中には、同じくミシェル・ルグラン作曲の「シェルブールの雨傘」のテーマ曲、”I will wait for you”やビー・ジーズの”Stain’ Alive”などいわゆる西側の音楽がありますが、アメリカがアメリカ、アメリカしていた頃のハリウッドの大俳優が共演した、泥棒が主人公の映画のテーマ曲を選んだことに、彼女の変身していこうという並々ならぬ意志を感じます。