ある新聞の夕刊に1960年代のある映画を上映しますという、小さな広告がのっていました。映画名は「あの胸にもう一度」。原題は「The girl on a motorcycle」、イギリス、フランスの合作映画です。ちなみにもう上映は終っています。

原作はフランス人作家による「La Motocyclette(ラ・モトシクレ)」で、白水書房から刊行されていた新書では「オートバイ」という日本語タイトルが付けられていました。

結婚したての若い魅力的なヒロインが、遠くハイデルベルグに住む不倫相手の大学教授のもとに、大型バイクを操って行く。同時にそのライディングに官能的な歓びを感じていく。しかし・・・・・。というようなあらすじです。ただ少年だった頃の筆者にとっては、そんなストーリーよりも、イギリスの女優、マリアンヌ・フェイスフル扮する主人公レベッカについて「黒革のツナギの下には何も付けていない」、「フロントジッパーを下げるとそこには」、という宣伝文句だけが頭の中で肥大していったものです。

確かにシンプルな漆黒のレザースーツはカッコよく、ヘルメットもおそらく特注のファッショナブルなもの。ヘルメットから流れ出るブロンドの長い髪は、女性ライダー=セクシーということを頭の中に刷り込んでくれました。どちらが先かは知りませんが、「ルパン3世」の峰不二子が黒のレザースーツでバイクに乗るシーンに通じています。

 

 

映画ではバイクは自由の象徴であり、社会と距離を置くものとして描かれていることが多いと思います。この映画でも御多分に洩れず、その様な位置付けがされています。でも原作も含めてという中で感じるのは、何か行動を起こす時には、人はみな孤独であり、リスクは自分自身が背負わなければならないこと、しかし、そういうことにこそ官能的な歓びが実はある・・・・・、バイクライディングにそれらのことが託されている、ということです。

 

ですので個人的に、英語のタイトルにも、ましてや日本語のタイトルにも、少し違和感を感じます。素直に「オートバイ」もしくは「モーターサイクル」と言った方が。ま、1960年代の映画ですからね、世間の状況が一番違うと思いますから。

 

ちなみにヒロインが操るバイクはハーレーダビッドソン。大型バイクの中でも象徴的な存在です。鉄馬という表現にこれほどふさわしいバイクはありません。

大学教授役は、妖しい魅力の二枚目俳優アラン・ドロン。彼がバイクに乗るシーンで印象的だったのは、「ル・ジタン」(ジダンではありません)という映画。カワサキの名車、500SS(マッハIII・H1)を彼が操り、敵地から脱出するシーンがありました。鮮明に覚えています。しっかりウイリーしていました。多分、スタントなんでしょうけど。

カワサキのバイクって映画の中で象徴的に扱われることが多いですね。日本車の中では特に。