USCPAのキャリアパスとして最高峰の一つであるM&A業務。

最近では取り扱う企業が増えてきていますが、以前からメインプレーヤーである、大人気のFASについて解説します。

 

なお、業務内容については、手厚めに書いているため、かなり長い説明となっています。適宜、興味のあるところに絞って読んで頂ければと思います。

 

 

 

 

M&Aの業務プロセス

 

まずは、一般的なM&Aのプロセスです。

① M&Aの戦略決定
② 買収ターゲットの決定
③ 各分野(財務、法務、人事、ビジネス、ITなど)のデューデリジェンス(DD)
④ バリュエーション、ストラクチャーの決定
⑤ 最終合意、クロージング
⑥ PPA(無形資産価値算定)

⑦ 統合戦略策定、システムやその他オペレーションの統合(PMI)
 

なお、これらの業務は、1社で全てのサービスを提供することもありますが、通常は、様々な企業や専門家がチームとなって共闘するのが一般的です。実際に買収を検討している会社(クライアント企業)が選定しますが、M&Aプロジェクト全体のアドバイザリーを行う会社の推薦などによって決まることもあります。FASにおいては、全ての業務を提供できる体制が整っています。

 

それでは、一連のアドバイザリー/コンサルティングの詳細について、FASがどのように関わっているかを見ていくことにしましょう。

 

USCPA取得者にも大人気のFASとは

FASとは、Financial Advisory Servicesの略で、主にM&Aを始めとする、財務関連のアドバイザリーを提供する会社です。

最も有名なのは、Big4の大手監査法人グループ(KPMG、Deloitte、PwC、EY)のFASです。M&Aや企業再生、フォレンジック&クライシスマネジメント(不正調査とリスクマネジメントのコンサル)を専門に行うグループ会社です。

なお、上記以外にもFASという名称を使っているコンサルティング会社や中堅監査法人などもあり、現在ではプレーヤーが拡大していますが、ここではBig4のFASに限定して話を進めます。

 

FASの内部は、提供するサービスやクライアントの業界ごとに部門を切り分けていますが、業務内容を把握しやすいように、サービス別の部署の説明をしていきます。ちょっと趣向を変えて、M&Aの業務を結婚になぞらえてそれぞれの部門の役割を説明して行きましょうか。

 

 

 


 

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FASの祖業で財務DD中心に取り仕切るTS
(トランザクション)

 

まず始めは、TSこと、Transaction Services(トランザクション・サービス)の業務です。

 

前述の「M&Aプロセス」③の買収ターゲット企業のデューデリジェンス(DD)の内、主に財務DDを行い、その他にもM&Aのディールの様々な局面でサポートするチームです。

監査法人から派生しているFASの最も古くからある基幹業務です。

 

財務DDとは、買収対象の詳細な財務分析や、対象会社の会計処理の状況などを把握・分析し、レポートを作成してクライアントへ報告する業務です。

 

結婚に例えるなら、結婚前に相手の経済力をチェックするようなもの。

将来のダンナ候補がいつもデートに乗ってくるBMWが実は借り物じゃないか。

マンションの借金で懐は火の車ではないか。

実はバツイチで、前妻との間で訴訟中ではないか。

収入は大きいが、過去の不倫の結果、莫大は慰謝料と養育費に追われていないか。

などなど、結婚前に相手を分析する業務を指します。

 

具体的な業務としては、対象会社から提供された財務情報などを基に、経営陣や財務経理部長などへのインタビューを通して詳細なレポートを作り上げます。案件にもよりますが、対象会社が大企業で業務が多岐に渡る場合には、100ページを超えるレポートとなることも。なお、この分析業務は、発見事項次第では、後述の対象会社のバリュエーションに影響するため、バリュエーションを強く意識した手法で行います。

 

余談ですが、財務以外のDDについては、Big4では多くの場合、グループ内の税理士法人やコンサル、弁護士法人などが手掛けており、一緒に業務を行うこともよくあります。

 

なお、DDの詳細については、以下の記事で説明していますので、併せてご覧ください。

一般的なDDのスケジュールや進行、各DDにおいて確認する重要ポイントや、わずかですが財務DDのレポートのサンプルなども載せています。

 

 

 

会社の価値測定を行う専門家VS
(バリュエーション)

 

お次はValuation Services (VS)です。

M&Aの買収価格を決める大事なプロセスである、前述の「M&Aプロセス」④のValuation及び⑥のPPAを手がける部署です。

 

 ④のValuationとは、M&Aの価格交渉の基礎となる、買収対象会社の価値を測定する業務です。多くのM&Aディールにおいては、類似会社比準法(マルチプル法)やDCF法を使用しています。なお、これらのバリュエーションの手法の内容については、検索すれば詳細に説明しているサイトがあちこちにあり、また書籍も大量に出ていますので、ここでは割愛します。

 

DCF法を例に取ると、財務DDが買収対象会社の過去から現在までの財務分析を主に行うのに対し、Valuationは将来のキャッシュフロー計画から価値を導き出します。

 

妻候補が結婚後に将来に渡って提供してくれるであろう愛と献身、子育て、共働きならその給料も含めてそれらの全ての将来のイベントの価値を現在の価値に置き直し、結婚まで持ち込むまでのデート代や結婚式、プロポーズの際に渡す婚約指輪のグレードといった「先行投資」にいくらまでつぎ込んでもいいかを測定する作業みたいなものでしょう。

 

類似会社比準法であれば、結婚相談所に登録している同等の他の候補者と比較してどこまでお金をつぎ込むか、価値を導き出すイメージでしょうか。

 

 

具体的には、対象会社の作成した事業計画を基に、各種DDで発見した事項の内、将来の業績へ影響を与えそうなものの影響を織り込んで、より精密な事業計画へと変更を加えます。その上で、各種バリュエーションを行います。従って、DD発見事項をいかにして事業計画へ折り込めるかがキーとなります。なお、バリュエーションのキーとなる、DDの詳細については、こちらも併せてご覧ください。

 

 

⑥のPPAは、買収の契約締結後の統合作業の際に、買収価格と対象会社の純資産の差額がのれんとして計上されますが、こののれんを会社が保有する無形資産(顧客リストや技術力など)に区分して表示するための価値算定をします。

 

 

M&Aアドバイザリー業務を行う仕切り屋CF
(コーポレートファイナンシャルアドバイザリー)

次に、M&A全体を取り仕切るCorporate Financial Advisory (CF)です。

 

M&Aのディールのアドバイザーとして、①~⑤の一連の業務を主導する役割です。

クライアントに寄り沿って、スケジュールやプロジェクト全体の管理・推進を行い、関係するクライアント社内のチームやその他の専門家などへの指示だしを行ったりします。クライアントのニーズを逐一汲み取って次のアクションをリードする大事な役割です。

 

Valuationに関しては、VSチームに外出しせずに、このチームが行ってしまう場合もあり、またディール後半では、対象会社株主である売り手との価格交渉を主導します。

 

これらの業務は、投資銀行の業務と基本的には同じ業務内容です。ただし、直接的な競合関係になることはそれほど多くはなく、FASのCFチームは、投資銀行のようなメガディールではなく、投資銀行が手を出さない中規模案件を手がけることが多いです。業務詳細については、別掲の投資銀行の頁もご覧下さい。

 

 

 

 

こちらの業務を結婚で言うなれば、

お見合いを推奨して間を取り持ってくれる仲人みたいな仕事です。好みや性格などの特徴を詳細に分析して適切なお見合い相手を紹介するだけでなく、婚前契約書や結婚の誓約に至るまでを丁寧に取り持ってくれるお仕事です。決断できずにグズグズしている時に背中を押してくれる役割をも担うことも。

 

 

M&Aディール専門のコンサルタント、CS
(コーポレートストラテジー)

次は、Corporate Strategy (CS)です。

FASの中では後発であるこのチームの業務は大きく2つあります。1つは、③のビジネスDD、もう一つは⑦のPMI業務です。

 

③のビジネスDDとは、

主に対象会社の市場環境分析や、売上を様々な切り口のKPIなどに分解して分析を行い、レポート作成と報告を行います。これらの分析は実は超重要で、バリュエーションに使用する対象会社の事業計画を引く際に、その売上がどのように上がって行くかを検証する業務となります。

 

通常、買手(クライアント)やバリュエーションを行うアドバイザリーチームは、対象会社の事業計画をモデリングして予測をするのですが、その際の売上や人員計画などを主には市場分析の上で今後の成長可能性を捉えた上で、各事業のKPIを過去から現在を分析し、将来の予測を立てます。その際に利用するのが、ビジネスDDの結果ということになります。

 

プロセスは前述のTSのDDの説明と同様です。なお、DDの詳細については、こちらも併せてご覧ください。

 

 

 

⑦のPMIは、Big4グループのコンサルの方で行うこともあれば、FASで行うこともあります。FASの場合は主にこのチーム。PMIは統合後Day100をターゲットにして会社の戦略やオペレーション、システムなどの統合を行うため、エリアが多岐に渡ります。

結婚後に夫婦生活を円満に進むようにサポートしてくれる各方面の方々・・・でしょうか。

 

 

事業再建・再編のプロ、RS
(リストラクチャリング)

事業再建・再編などを行うRestructuring (RS)です。

 

このチームは主に、企業再生のお手伝いをするチームです。機能は、チームとして分かれていることもあれば、TSチームが兼ねていることあります。

 

再生や再編に向けて、事業整理による本業以外の業務の売却に伴う財務やビジネスDDを行ったり、再生計画作成の支援は銀行との交渉支援などを行うこともあります。この部署ではその性質上、破産や民事再生などを利用することもあるため、日本の法律に触れる機会も多いです。

言うなれば、マンネリ化した中年夫婦の間を取り持ち、関係修復に持ち込むか、はたまたスッパリ離婚させてお互いが違った人生を歩み出すかを決定し、サポートする役割と言えるでしょうか。

 

 

 

Big4内に存在する探偵団、FS 
(フォレンジック)

最後は、鋭意拡大中の探偵組織、Forensic (FS)。

 

Forensicsチームは、他のチームとちょっと毛色が違い、企業の不正調査を行う部署であり、M&Aの部門ではありません。最近では、この部署の業務が拡大しているFASもあり、「クライシス・マネジメント」事業としてM&Aアドバイザリー業務との2本立てにしている所もあります。

 

簡単に言うと、企業の不正調査や、リスクやコンピューター犯罪リスク、マネーロンダリングリスクなど色々調査を行っていて、会計とシステムに強い部署です。大企業の不正などが社会問題となって大きく報道された時に、後に第三者委員会の調査などが入ることがありますが、裏で調査をしているのがFSチームだったりします。関係者のメールチェックとかまで、細かいことやっています。

 

これは・・・結婚ではないですが、配偶者が浮気している疑惑を持った時に探偵に頼む調査のようなものかな…。

 

 

投資銀行(IBD)との違い

投資銀行と似た業務も提供しているものの、一番の大きな違いは、FASはあくまでコンサルティングの立場からのアドバイザリー業務である点です。

 

投資銀行のように、資金調達のお手伝いまでは行っていません。また、公認会計士の倫理問題があることから、一方の考え方に肩入れせず、良い悪いを明確には言わずにファクトを伝えることを心掛けています。

この点が協業しているクライアントや投資銀行を苛立たせることもよくあります。要は、このまま行っていいの?ダメなの?と聞かれるのですが、FASといては、明確にレポート上で判断は書けないのです。

まぁ、レポート外では言ってしまっていたりするんですが。

 

CFチームは、投資銀行同様に成功報酬型のフィー体系ですが、その他の部門はコンサルティング会社同様に関与時間×各タイトルごとの単価でフィーを請求します。

会社によっては、やや薄利で数で勝負、と言った所もあるように思います。

 

なお、投資銀行(IBD)の詳細については、以下記事をご覧ください。

 

 

 

 

 

FASで働く人たちの雰囲気

FASはどこも業務が似ているため、あるFASから別のFASへ転職する人も多いです。

基本的には人もやさしく、きちんと教えてくれる上司なども比較的多いように思います。最も、M&Aの案件の増加に伴い、忙しすぎて手厚く研修を重ねて行くと言うよりは、いきなり実戦で、案件に打ち込まれてぶっつけ本番で覚えて行くスタイルです。

 

忙しさは、プロジェクトの状況次第の仕事なので、午前2時や3時になることも多々ありますが、投資銀行よりは圧倒的にちゃんと人でいられます。

しかし、良くも悪くも人間関係が希薄な部分もあるので、下っ端の内は積極的に色々な所に顔を出して覚えてもらい、上の人に使ってもらえるようになる必要があります。気に入られると、次々にアサインを獲得できます。ハッキリ言って、使える奴ほど仕事が来て忙しく、実力も上がって行きます。

 

ちなみに、ガツガツっぷりは、

 

投資銀行>>>>>>>>FAS>>>>>>>>>>>監査法人

 

と言う感じでしょうか。

 

 

FASで働く人たちとその給与

Pやマネージャーがメインでプロジェクトを回し、アナリストやアソシエイトがそれを補佐する形は、投資銀行と同様です。

 

投資銀行との大きな違いは、営業チームと案件遂行チームが明確に別れていない所。

最も、最近ではFASも拡大に伴い、営業のみを行うVP以上の人が増えてきてはいます。特にアナリスト・アソシエイトのうちは、案件を回しつつ、空いている時間にパートナーやVP/マネージャーの営業用の提案書作りの手伝いをすることもよくあります。

 

給料に関しては、投資銀行のような破格な金額ではありませんが、監査法人よりは給料が高く設定されています。昇進していけば、かなりの高水準となります。ざっくりですが、以下のイメージです。

 

  • アナリスト          :   600 - 900万
  • アソシエイト         : 900 - 1,200万
  • VPやマネジャー       :1,200 - 1,500万
  • シニアVPやシニアマネージャー:1,500 - 2,200万
  • パートナー          :3,000 - 6,000万(会社にもたらした売上・利益次第でボーナスが変動)
※全て、ベース+ボーナスの合計の年俸で記載。

アメリカでは、パートナーになってから10年間勤続して定年を迎えると、定年後も退職時の給与が年金として保証されると言う噂も。しかし、残念ながら、日本ではこのようなことはありません。

 

あなたも、FASへ転職してみたくなりましたか?

 

 

 

さて、ここまでFASのM&A業務や、人についてみてきましたが、以下の記事でUSCPA取得者がどうM&Aに携わって行くか(転職して入り込むか)について、考察していきます。

 

 

 

 

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